Syakai no Mawari |
つしたらのし |
最近は陽が沈むのが早い、18時にもなれば人の顔は見えなくなる。だから、ぼくはチョコレートを買いにでかけることにした。棒状に刻まれたアーモンドが入った、安価で薄っぺらい板チョコレートだ。 歩いて6分ほどで、その板チョコレートを79円で売っているドラッグストアがある。壁の色合いは目立つ緑色で、ピンクの縁取りがしてある。下品だね。だからといって、この町の建物すべてがかわいらしいこまどりの卵色に白いリボンでラッピングしてあったとしたら、ぼくは歩いて4分で引っ越しを考えるだろう。 店内に入って目につく化粧品コーナーを無視しながら、左に曲がると5mほどでお菓子コーナーだ。薄っぺらい箱を3つ手に取りレジに向かう。店員さんは自分が下品なラッピングをされているとも思わずに、今日も愛想よく「13円のお返しになります」と小銭を手渡してくれた。そうだ、外見なんてどうでもいいんだよね。小銭を受け取る瞬間に、なんだかジーンズの裾が洗濯のせいで短くなっているのに気がついたけれど、店員さんの笑顔にもっと大切な何かを気付かされた。 店を出ると信号待ちをしている一台の白いワゴン車があった。中にはボウズでヒゲのこわもてなお兄さんが乗っていた。窓に金網が貼っていないけれどこの護送車は防弾ガラスなのかしらん。と思っているとワゴン車のドアには『んえちうよおがうゆ』と書かれている。なるほど。 遠目から見るとなんだかおもしろい。でも、あの男が未就学児と毎日接しているのだ。なんだかクラウンみたいだな。不気味だと思う。 仕事の適性っていったいなんなんだろう。そんなことなら、いつか見かけたファミレスのバイト、面接しておけばよかったのかもしれない。そうしたら今日は板チョコレートを5つは買えたぞ。 町はクラウンであふれかえっている。人間らしい顔をしているのはぼくだけだ。ストレスが嫌だ。働きたくない。これが本当の人間というものではないかね。しかし、こうもクラウンが多いとクラウンの絵の具で釣り上げた口角が正しくて、ぼくが正しくないみたいだ。 ぼくは惑星この町をぷかぷかと浮いている。第五元素がぼくを支えてくれてはいる。その第五元素とは主に仕事をしている父親なんだろう。 太陽の光はここにはほとんど届かない。ぼくのオモテはほとんど氷点下になっている、それでもどこかには熱い情熱もあるはずで、もしかしたらそれがオモテで、今家族にみせているこの姿こそウラなのかもしれない。これからも恒星を羨みながら影を蓄えるんだろう。 なにかどろどろとしたイメージを引きずりながら歩いたから家まで8分ほどかかったらしい。出かける前に掲示板に立てておいたスレッドは落ちていた。みんなはどんなレスをつけてくれたんだろう。そこについたレスはきっとぼくと同じ人間らしい顔をしたレスなんだと思う。 なんだか座り心地が悪い。ポケットから財布を出して机に置く。なんだか財布がくたびれている。ぼくも再び緑やピンクで下品にラッピングされ、赤い鼻を付けるときが来るのだろうか。来なければ板チョコレートはあと半年くらいしか食べられないと思う。 |
2013/12/01 (日) 23:05 公開 |
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この小説の場合、裸にはなっていないように思います。さらに言えば人通りのある道を避けているようにも思います。注目されたい、でも恥ずかしいのは嫌だし、流行の服を調べて着飾ったりするのも嫌だ、そんな驕りを僕はこの文章から感じました。
散らかった部屋の中でチョコレートを貪り食っているシーンとか、いい年をしてみっともなく親から金を貰うシーンとか、優しそうな店員から釣銭を高いところから落として返されるシーンとか、書きたくないし読みたくないって所まで書いて、はじめて文芸作品としての価値が出るのではないかと。