夜の中のサイレン |
学者志望: 素人文です。書くのもUPも初めてです |
二階の一室。六畳を兄弟で分かち合った一角。二畳のスペースが僕の領地で聖域で絶対国防圏だった。僕の一角のみベランダがあり、何に使うという訳でもないのに必死にそこを守っていた時分。 ある冬の晩、親兄弟共に寝室で寝てしまった後、僕は一人で起き出した事がある。再びは寝ようとせず、寝室から出て自室の冷え切ったドアノブを回した。中に入ると床と空気がヒヤリと迎えてくれた。部屋に無造作に散らかっていた靴下を履き、居間へお菓子と烏龍茶を取りに行ったのだった。 最高の冒険をしているつもりだった。静寂を独り占めしていた。この空間の王様は僕で、他には誰も何もいなかった。 何時間経ったのだろうか。漫画も読み飽きてゲームをし始めた頃に、外からサイレン音が聞こえてきた。救急車だ。蚊の羽音程度の音が、時間をかけてゆっくりと確かに近づいてきた。僕はカーテンを開けて外を見てみた。延々と闇が広がっていた。 救急車は見えなかった。恐らく大通りを通過したのだ。ここからそこは見えない。見えたのは街灯と近所の有り触れた光景でしかなかった。僕の世界に突然入り込んだ救急車のサイレンが、その事を教えてくれた。 その時、僕は自分が何の冒険もできていない事に気づいた。僕は居間と自室の往復ができて喜んでいるだけだった。外には謎に満ちた暗黒の異世界が広がっているというのに、僕はそこまで行こうとはしていなかったのだ。今までの僕は所詮、勇者の到来を待つ村人百姓でしかなかったのだ。 そんなのはゴメンだった。僕はどんな危険が待ち受けていようが絶対に尻込みしない勇者の筈だった。ゾンビだろうと古代兵器だろうと、リボルバーで粉々にしてしまう最強の探検家のはずだった。 気が付くとベランダに飛び出していた。吐息が白く昇っては消える。さっきと変わらず街灯と近所しか見えない。そうだ。僕にはこの目で闇の世界を探検する義務があるのだ。早く準備をしなくては。 食べかけのお菓子を鞄につめ、お小遣いを全部ポケットに放り込んだ。バレないように自室を抜け、寝室の前の廊下を渡った。玄関も冷え切っていた。靴を履き鞄を背負い、音のしないようにゆっくりと鍵を開けた。 そこから先の事は覚えていない。僕は日が昇るまで探検を続けていたのだろう。次の日の学校は欠席扱いだった覚えがある。あの冒険で僕は確かに何かを得た。アンコールワットの発見よりもマチュピチュ到達よりも、彼にとっては重大な何かを、あの晩手にすることができたのだ。 それが何だったのか、確かめる術はない。今でも僕の手元にある筈なのだが。 |
2014/01/07 (火) 22:09 公開 2014/01/07 (火) 22:11 編集 |
■ 作者<9.741sHG> からのメッセージ 実体験ではありません。 |
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俺は好きだなあ。
ただ書き手の技量がどれ程のものかの値踏みを楽しみたいので、冒険の内容にも敢えて触る程度の意欲は見たかったかな。
例えばあと二枚ほど書き加えたとしたら、この読後の情緒は醸し出せなくなるのかな?
数枚をきっちり書く力量があるのは判る。
次は数十枚の作品を読みたいかな。