グッバイ☆アース |
秋吉君: むかーし書いたやつ発見した。超なつかしい。 |
「サユっち、昨日のアフターどうだった?」 「あー焼肉食って朝までカラオケ」 夕闇迫る新宿の街を、キャバ嬢が二人歩いていた。 「お決まりコースかあ。リクさんもマンネリじゃね?」 「あっしはジョジョエンで特上カルビ食えればおk」サユリは噛んでいたガムを路上に吐き出した。「おっイケメン発見」 「どれどれ?」 「あそこ。漢方の店」 「雰囲気おっさん臭くね? タッパあるけど猫背だべ」 「メンが良ければいいんじゃね?」 「ちと濃ゆくね?」 「あっし、濃ゆ目がいーんだわー」 「お嬢さんたち」突然黒服が二人の行く手を阻んだ。「軽くどースか」 「うぜーし。あんた、<羅美男璃(ラビオリ)>のホストだろ」 「ちーす、ケンヤでーす」 「あっしら、これから仕事だし」 「そしたら仕事終わったら来なよ。俺指名してくれたら、安くするからさ」 ☆ バイトが終わって店を出ると、夜が明けかかっていた。 路地のあちこちに捨てられたゴミ袋を、カラスがあさっている。 今日も客とお店の女の子に何度か怒られた。 特に最悪だったのが、十時ころ一人で入ってきたハゲオヤジ。 延長はしないから三十分たったら声をかけてくれ、と言われていたのを忘れてしまった。 お店が一番混む時間帯だ。俺はお酒や食べ物をテーブルに運んだり、指名のあった女の子を呼びに行ったりと、大忙しだった。 俺がオヤジに声をかけた時、十一時半を過ぎていた。 延長料金が加算された請求書を持って行ったら、テーブルの上の水割りを顔にひっかけられた。氷が俺の目に当たった。 オヤジは真っ赤になって唾をまき散らしながら俺を罵り、絶対に延長料金は払わないとごねやがった。 店長が出てきてようやく場は収まったが、オヤジの延長料金は結局俺のバイト代から差し引かれることになった。 思い出したら、ムカムカしてきた。 「糞オヤジ死ね!」 俺は道ばたのゴミ袋を思い切り蹴った。呆気なく袋の横腹が破れると、生ゴミがはねて、臭い汁が頬に飛んできた。 「ファアアッッッック!」 高校を中退し、アテもなく上京してから十三年経った。来年は俺も三十だ。いつまでこんな暮らしを続けなきゃならないんだ。いつ俺はこの腐った街を飛び出せるんだ。 俺はこんな所で終わる人間じゃない。今はキャバクラでバイトしながら俳優を目指しているが、いつか必ず表舞台に立つ。映画中心の仕事をやって、いずれはハリウッドに進出するんだ。俺は世界クラス、いや、宇宙クラスのビッグな器だ。 苛立ちを紛らすために、居酒屋の前に出ていた水色のゴミバケツを蹴り飛ばそうとした。 「にいさん、にいさん」 電柱の影から、小柄な中年男が目の前に現れた。 「な、なんだよてめえ」 蹴りの体勢をいきなり止めたから、バランスを崩してふらついた。 「にいさん、超ラッキーね」男は人懐こい笑みを浮かべた。前歯が一本もなかった。「百年に一度のビッグチャアアアンス!」 「あ?」 「私の家、中国で薬作ってる。百年に一度咲く花からエキス取り出すね。そのエキスから作ったのがコレ」 男は汚いジャンパーのポケットから小瓶を取り出した。 「願い事叶うね。なりたいもの、なれるよ」 「なめとんのかボケ!」俺は黒ずんだ指から小瓶を取り上げ、左腕で男の首を抱え込んだ。「てめえが飲みやがれ!」 俺は瓶のキャップを開けて、歯が抜けた男の口に瓶をぶちこみ、液体を流し込んだ。 体を離してやると、「むごう!」という鈍い呻きと共に男はしゃがみ込み、「ごぼごぼ、ぐええ」とむせ返った。 「ふん、糞野郎が」 その場を去ろうとしたとき、男がぬっと立ち上がった。身長が180センチくらいになっていた。 「え……なんで金城武?」 「だから言ったでしょう。なりたいもの、なれるね」 「なんで金城武?」 「つっこみどころ、そこ違うでしょ」金城化した男はジャンパーから瓶を取り出した。「これ、最後の一つね。あげるよ」 俺は金城から瓶を受け取ると、迷わずキャップを開けた。 「ど、どうすれば良いわけ?」 「なりたいもの、心に思うだけね」 「よ、よし!」 俺は瓶の口をくわえて、ぐいっとあおった。 (俺はスターになりたいんだ。宇宙クラスのビッグなスターになって、こんな街からおさらばしたいんだ!) 液体はとてつもない苦みと臭みで、胃がぎゅうっと縮み、酸っぱい吐き気がこみ上げてきた。 (あ、そうだ金も欲しい。ハンパねえくらいの……か、金持ちに……) 「ごぼごぼ、ぐええ」 胃の奥が燃えるように熱くなった。途端に腹が猛烈な勢いで膨れ始めて、自分がみるみる巨大化するのが分かった。同時に足が地面から離れ、ゆっくりと上昇していく。 空中でくるりと体が回転したとき、地上の金城と目があった。金城は満足そうな笑顔で、親指をたてた。歯が光った。 俺は膨張と上昇を続けた。 始発電車が動き出すころには、大気圏を超え、宇宙空間に飛び出していた。 ☆ 「……って話」 「ケンヤ君、まじでバカなんじゃねーの? 何その下らない都市伝説」 サユリがガムを噛みながら笑った。 「都市伝説ですらないっしょ。つーか金城武って誰だよ」 「いや、まじだって。この間いきなり出現したあの月の隣の星。んで、これはまだマスコミにも出てないんだけどさ、NASAの極秘調査によると、ハンパねえ量の金が埋蔵されてるって」 「NASAの極秘情報をなんでケンヤ君が入手してるわけ?」 「うちの親父の親戚の取引先の社長の弟の知り合いの同級生が……」 ぎゃははは、という笑い声とともに、ホストと二人のキャバ嬢は、陽が昇りつつある街の路地裏へと消えて行った。 (おしまい) |
2014/01/24 (金) 23:05 公開 |
■ 作者<9gdsT8rF> からのメッセージ アリでの評価は低かったが、俺的にはとても気に入っている。 |
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感想・批評 |
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2: <1Y21Vy9J> 2014/01/26 (日) 19:49 |
1: <JfClyUHf> 2014/01/25 (土) 01:43 ひやとい |
しかし、キャバ嬢が好きですね。べつにかまわんけど。