踊るあの子はコン 第五話 |
オオバ: 昨日書き忘れてごめんなさい。 |
僕は三階にある与えられた自分の部屋を出て、年季の漂う黒ずんだ、そして傷んでいることがよくわかる木製の階段を、馬鹿に大きなきしむ音をたてて降りた。廊下をわたって食堂につく。そこでは舞姫が朝食を乗せた皿を持ちせっせと調理室から運んでいた。 「おはよっ」 元気な声で彼女は言った。僕も挨拶をする。ささやかな挨拶。 その後僕はすることもなく壁に背をもたれたり離したりしてひとり遊びにふけっていると、 「あんたも手伝いな!」 調理室から女将が顔を出しぴしゃりと言った。まるで初めて会った時のあの幽玄なる眼差しから程遠い普通のおばさんに見えたので、僕は何かが違うと思いながら調理室に入った。舞姫とすれ違う度ほのかな幸せが心の中で育つのを感じ、こんな日が続けばいいなと思った。 食後、、舞姫と外に出た。彼女の白いワンピースは、品の良い、園庭の噴水の水しぶきが太陽の光を受けた時のようにきらめいていた。公園に入り舞姫がベンチを指差す。隣りに一本の木が立ち、そこから伸びた枝が葉をはやし、それがベンチの屋根のように日陰をつくっていた。僕達は座る。 「ところで御藤さんはわたし達がいなくなったらどうやって生きていくつもりなのかな?」 僕はその言葉の内容に驚いた。また幻聴かと思った。それを訪ねてみると、 「ちがう、幻聴じゃない。心配して言っているの。わたし達と一緒に暮らして御藤さんが駄目になってしまうんじゃないかって」 「じゃあどうすればいいんだろう」 「その台詞、自分で考えるっていう主体性がないわ」 「なんだか舞姫、急にキツくなったな……」 僕は寂しく思った。突然そんな僕の顔に、舞姫が額をくっつけてきた。熱が伝わる。ぬくい、思った。 「わたしはあなたの味方よ?」 「ああ、ありがとう、舞姫……」 舞姫は額を離す。 「それでね、いい考えがあるの」 「本当に?」 僕の片耳に舞姫は唇を近づけ、ささやいた。その考えに僕は驚いた。 「真面目に言っているの?」 「うん。もうそれしかないわ。宿の住所と電話番号はわけあって使っちゃ駄目。だから履歴書書けない人が職を得るにはもうそういう方法しかないの」 「だからと言って、男色家の街で男と寝て気に入ってもらい、職を斡旋してもらうなんてそんなそんな都合よく……」 「御藤さん」 彼女ははかなげな目をして力強く僕の名を呼んだ。 「大事なことを話すと、あの民宿はもう少しで消滅しちゃうの。だから時間がないの。御藤さん、だから頑張って」 純白のワンピースに身を包む、この可憐な少女は僕を男色家の街へ行かせて男と寝させようとする。僕は嫌だったがどうやらそれからは逃れられそうになかった。だって舞姫があまりにも切実な目をするものだから……。僕は決心した。 日没後、隣街の男色家の街まで舞姫に地図を描いてもらい、それを頼りに赴いた。僕の背中を優しく撫でるように夜風が吹く。まるで舞姫が僕を力なくおしているかのように。 ついに目的地についた。若者から中年以降の男性がいる。なんともいえず賑やかで活気があった。一通り歩き回ったが、規模はそれほど大きくない。だが駄菓子屋の棚のように、色とりどりの店がところ狭しとぎゅうぎゅうに詰まっていた。面白いところだ、と僕は思った。 さっそく声をかけてみる。ターゲットは職を斡旋してくれそうな中年の男性。僕は狙った獲物に歩み寄る。 「すいません、一回四万円でやりませんか?」 「四万円? 高ぇなぁ」 そう言って男は通り過ぎてしまった。僕は反省をする。次は三万円だ。また男を探し、 「すいません、三万円で一回やりませんか?」 「ん……、三万円?」 「はい」 「そこの店に行けば一回二万円で出来るんだよ。君、それ以上のサービスできるの?」 男が指差した方を見る。看板に『雄蜂の宿』と黄色いライトに照らされてある。僕は鳥肌が立った。そんな自分にこれから大丈夫なのかと不安がよぎった。が、それは外面に出さないようにする。 「あの、それ以上のサービスって一体何でしょうか?」 「例えばケツの穴だよ」 「ケツの穴?」 僕は首を傾げた。男は好奇な目を輝かし、 「ケツの穴に入れるんだよ。モノを。挿入だ挿入。わかる?」 僕は理解した。まあ、できるだろうと思い、軽い気持ちで「いいですよ」とこたえた。 「処女航海だな処女航海。それだけに処女後悔するなよ?」 男が愉快そうにいう。僕はさむい、と思ったが外に出さないようにした。 「俺の名は鷹島と言うんだよ。よろしく」 「僕の名前は、御藤霞味といいます」 |
2014/04/14 (月) 19:02 公開 |
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感想・批評 |
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2: <mM19Qb.g> 2014/04/14 (月) 21:34 ひやとい |
1: <ixixYoNt> 2014/04/14 (月) 20:49 |