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三角野球
 
 ―戦陣に立った彼女は、全てを背負った背中を僕の方へと向けた。顔を上げて目の前に居る敵を見据え、その敵もまたギラギラとした眼光を彼女へ向けて放っていた。
「これが、決戦になるのね」
 はっ。と鼻で笑った彼奴は、足元の土を払った。
「俺の勝ちは決まっている。さっさと降伏したらどうだ?」
「勝負に向かう者として、その選択はしない!」
 凛とした表情は、彼奴のどす黒い眼光に相反するかのように真っ直ぐだった。彼女の後ろでしゃがみこんでいるだけの僕には、今の彼女が負っている者を背負いこむことはできない。
 彼女に利が無い事は明白だった。既に二回もしてやられているし、今回も既に絶望的な状況だ。
 しかし、彼女は何故今も笑っていられる?
 彼女は僕の疑問を見透かしたかのように、フフッと笑い僕を一瞥した。
「勝負は最後まで分からないのよ」
 勝利を確信した笑みは、不安に暮れる僕には眩しすぎた。
 彼女はもう一度奴を見据え、姿勢を正した。腰を落とし、脇を閉めて奴を睨む。
「その愚かな判断は、身の破滅を招くぜ」
「どうかしら?」
 彼奴は一、二歩後退して、大きく足を上げた。 来る!
 彼女も一層真剣な表情で手に力を入れる。
 彼奴が大きく手を振り、最後の一発が放たれた。

カキン。と爽快な音がグラウンド中に響いた。

 僕は立ち上がり、球の行く先を見上げた。飛び込んできた太陽に思わず目が眩む。球は一瞬だけ太陽に重なると、すぐに落下へと向かった。
「何ぃ!? ショートショート!」
「んなこた分かってるよお!」
 言っておくが、遊飛ではない。野手が投手と捕手と遊撃手しかいないだけだ。
 遊撃手が球を拾いに走っている間、彼女は悠々とグラウンドを回っていた。二塁は無いし、外野手は居ない。その状況で左飛なんてお見舞いしたら、三角野球ならランニングホームランは堅いのだ。
 しかしその慢心は、誤算を招いた。
 彼女は瞬く間に三塁近くに居た。額の汗を拭いながら走る。
「来い! もうすぐホームインだ!」
「させるかぁ!」
 彼女が三塁を回った時、ショートが球を送り返してきた。 
 すぐに中継の投手まで球は及ぶ。
 彼女は既にあと三メートルの処まできている。ホームインが先か、アウトが先か。
 投手は渾身の振りで僕にバックホーム。彼女は服が汚れるのも厭わずに滑り込んでくる。
 すかさず彼女にミットを当てたが、彼女は僕の股を潜って起用に滑り込んできた。
 ……どっちだ!?
 審判の顔を見る。険しい表情でホームベースを凝視している。
 彼女は滑り込んだ体勢で、投手と遊撃手は棒立ちで審判のジャッジを見ていた。
 数秒の静寂の後、審判が手を動かした。僕も彼女も息を呑んで見守る。
 彼は腕を横に開き
「セーフ! セーフだ!」
 
2014/06/22 (日) 12:20 公開
2014/06/22 (日) 12:21 編集
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三角野球楽しい
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感想・批評
>>1
ありがとうございます。

>>2
安直すぎました。
「ラスト」とか「2O2S3B」とか色々候補はあったんですけどね。

演出が足りないというご意見に関しては、読み返してみて確かにそう感じました。
事実を淡々と述べている地の文が多かったので、次回は演出を意識して書いてみようと思います。
3:  <KlxxnzCn>  2014/06/27 (金) 01:08
まず、三角野球の題名は変えた方がよろしいかと。
最初は、なんだかわからないようにした方が、ワクワクすると思いますよ。
そんで、だんだんと三角野球とわかって、「なんだあー」となる感じ。
これだったら、最初、侍同士の切り合いのような雰囲気を出しても、よかったのに。と思ったくらいです。

それと、
これは、作者さんだけじゃないのですが。
話の筋とか、けっこう面白いの考えだすのに、どうにも演出ができない。と、いつも感じてしまいますね。
なんででしょうかね。もったいないです。

この作品をですね、プロットか、骨組みくらいに考えてみたらどうでしょうか。
もうすこしですね、場面の空気といいましょうか。描写による緊迫感の演出だったりといいましょうか。表現をしてほしいです。

たとえば
>はっ。と鼻で笑った彼奴は、足元の土を払った。
をちっと改変しつつ、付け加えるとですね。

はっ。と鼻で笑った彼奴が、足元を蹴るようにして払う。すると、すこし前から強くなってきた風までが、土埃をつむじに舞いあげ、彼女を威嚇して見えた。

みたいにするんです。
まあ、正直、感性の違いがあるので、他の箇所の改変みたいのは難しいのですが。なんとなく言いたいことわかってもらえますかね。
現状は骨組みなんです。
2:  <B501xK7n>  2014/06/24 (火) 21:01
楽しそうですね。
1:  <cTVLvSqn>  2014/06/24 (火) 00:06
ひやとい
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