鬩ぎ合い |
ぷぅぎゃああああああ: 食欲の秋祭り参加作品 |
「ちょっとあなた、いい加減にしなさいよ」 隣り合った相棒が怒りを露わにした。 「なんですか。今、食べることで忙しいんだから、あとにしてくださいよ」 「それ、そこが問題なの。あなた、いつまで食べるつもりなのよ。こっちの身にもなりなさいよね」 のんびりとした反応に余計に怒りが加速する。非難を受けた方は謂れの無い指摘と言わんばかりに不機嫌な反応を返した。 「食べることは大事じゃないですか。今、食べてる牛肉も臓器に必要なタンパク質ですよ」 「あなたは肉にこだわり過ぎなのよ。タンパク質を重視するなら、しらす干しでも食べてればいいのよ」 「味気ないしらす干しよりも、肉汁が滴るようなステーキの方が美味しいじゃないですか」 おっとりとした調子で不満を言い募る。 「あのね、それはあなたの勝手な事情だよね? 付き合わされる方はたまったもんじゃないわ。こっちには苦情だって来てるんだからね」 「そんなことはないでしょ。僕が食べて誰が困るんですか」 少し弱い反論に、ふふんと勝ち誇った様子を全面に出してきた。 「あら、そうかしら。こちらに伝わってきた話だと、苦しいからこれ以上はやめてくれ、ってあるけど。あなた、さっき臓器の話をしてたわよね」 「したけど、それがどうかした?」 「現状を訴えてきた彼だけど、無理な引き伸ばしで筋力が低下してるみたいよ。筋肉を作るタンパク質の摂り過ぎで筋力を低下させたら、全然意味がないよね」 「……それはそうかもしれないけど、でも、野菜も必要だし。その、牛肉は諦めるけど、350グラムのノルマは果たさないと」 言い淀みながらもしっかりと主張はしてくる。長い付き合いで、そのような展開になる事を予想していたのか。一気に言葉を強めた。 「あんたはね、個々を見過ぎなのよ。トータルのカロリーで考えなさい。2500キロカロリーを遙かに超えて3000オーバーじゃないの。成人病まっしぐらだわ」 少しの沈黙のあと、わかったよ、と片方が折れた。 「じゃあ、あとは任せてね」 妻は食器を洗い終えた。静かな食卓を不審に思って後ろを振り返った。夫はイスに座って夕飯と向き合っていた。首を捻りながら腹部を手で摩っている。 「あなた、どうかした?」 「なんか、腹が一杯で。悪いんだけど、残してもいいかな」 濡れた手をタオルで拭くと、妻は夫の傍に立った。大皿のステーキには三切れ。サラダは半分ほど残っていた。 「気にしなくてもいいわ。ちゃんと食べてくれた物もあるし」 妻は空になったコンソメスープとマッシュポテトの食器を重ねると、キッチンにいそいそと運んでいった。 「軽い運動のつもりで、あとは僕が洗うから」 「あら、ありがとう。じゃあ、わたしは先に寝てるわね」 「うん、僕もあとから行くよ」 二人は軽く唇を重ねた。離れた際、妻がおかしそうに言った。 「少しお腹が邪魔になってきたみたい」 「今日みたいな日が多いとダイエットになるかもね」 その夜、二人はベッドで抱き合うようにして瞼を閉じた。 「そろそろ寝るわよ」 「そうだね、寝ようか」 「あなた、明日も自重して食べなさいよ」 「わかったよ。一日のカロリーを考えながら、バランスよく食べるようにする」 「わかればいいのよ、おやすみなさい」 夫の脳内の満腹中枢と摂食中枢も暫しの眠りに就くのだった。 |
2014/10/08 (水) 12:40 公開 |
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