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硝子の少年
卯月京
 目が覚めると、実家のベッドだった。あれ、なんで、俺はこんなところにいるんだと思った。
 周囲を見渡すと、壁に京都、奈良のペナント、木刀と金属バット。俺は起き上がり、鏡に向かってみた。
「高校生の頃の俺じゃん。やった願いが叶って高校時代に戻れたか」
 階下から声が聞こえる。
「大輔、起きた?」
 母親の声だ。キッチンに行くと、父親が新聞を読んでいる。
「大輔、そろそろ進路を決めたか」
 そうだ、俺は小説家になりたかったんだ。
「小説家になるために上京する」
 父親はコーヒーをこぼして、
「お前、情報系の大学へ進学じゃなかったのか」
「プログラマーなんて四十過ぎたら通用しないから」
「いいか、小説家というものは」
「いいのいいの、叶えばなれるってのは本当だから。じゃあ、学校に行ってきます」

 そうだそうだ。あこがれの良枝にこの際だから、告白しなくちゃ。
 学校に着くなり、ノートを破って『放課後、体育館裏で待っています』と書いて、良枝の下駄箱へ入れておいた。

 休み時間、親友の鈴木が席にやってきた。
「今日の部活どうする?」
 はて、部活は何をやっていたっけ?卓球部だ。
「ロックンロールじゃない卓球部なんて、今日でやめてやるぜ」
「お前、どうした?」
「どうせ、俺は二十七歳で死ぬんだ。卓球になんか青春をかけてられるか。ロックンロール!」
 鈴木は顧問の吉村を呼んできて、退部を止めようとする。
「お前の実力なら三回戦までは行けるぞ」
「Don't trust over 30's。何もなかった大人を信じるな。イエーイ!鈴木、今日からバンドをやろう!」
「お前がそこまで言うなら、先生は何も言わん」
「お前と一緒にインハイを目指したかったけど残念だ」
 顧問と鈴木が去っていた。
 みんな、ロックンロールな生き方をしていないな。高校生だぜ無限の可能性があるのにもったいない。

 そうして、放課後がやってきた。体育館裏へ行くと、良枝がいた。
「あの、返事だけど…」
「じゃあ、今からホテルへ行こう」
「え!」
「お前もその気で来たんだろ」
「バカァ!」
 良枝は泣きながら去っていた。
 あれ、俺まずいことしたかな。高校生って面倒臭い。まぁ、次は美子を誘ってみよう。

 部活もなくなったし、帰り道、ゲームセンターに寄り、ストリートファイターをやることにした。
 最初、対戦相手がいなかったが、数ゲームやっていると対戦相手が現れた。
「Ready!」
 俺のコンボが冴えまくる。相手は数秒で負ける。それが二十ゲームも続いたか。相手がこっちがわに現れた。
 隣の工業高校のヤンキーだ。
「夜道を気をつけろよ」
 俺はびびり思わず、「一緒に帰っていただけますか?」
 ヤンキーは思わず「おぅおっ」。駅までヤンキーと一緒に歩くことになった。
「お前、ストファイ強いな」
「受験勉強、そっちのけでスーファミで練習していますから」
「お前、あの学校のわりには面白いな。今度、俺のバンドのライブを見に来いよ」
 おお、青春らしくなってきた。ヤンキーがチケットを渡してくれた。
「いいですよ。でも、その日まで生きているかわかりませんよ」
「なんだ、喧嘩上等なのか?ますます、気に入った。じゃあな!」
 ヤンキーと駅で別れた。ライブでナンパもいいじゃないか。

 家に帰ると、父親と母親が待っていた。
「母さんがな、お前が悪そうな奴と歩いたと近所で聞いたって、でどうなんだ?」
「あいつは悪いやつじゃないロックンロールな奴だ。心の友と書いて、しんゆうと読む」
「お前はどうしたんだ」
「どうせ二十七までしか生きないんだ。毎日、享楽的に生きるぜ」
「もう、わかった。父さんは何も言わない。ただ、父さんたちより先に逝くのだけは許さんぞ」
「父さんたちが許さなくても、神様は許さないぜ。オー、ジーザス」
「もう、父さん何も言わん」
「母さんも」
 あれ、うちの両親ってこんなに物分かり悪かったか?もっと、俺のやることに理解を示してくれた記憶があるのだが。

 例のヤンキーのライブに来た。グルーブなナオンがいっぱいいるぜ。もちろん、未成年にもアルコールを出してくれる。
 ターキーのロックを頼んだ。飲んだ途端にむせた。あれ、俺、こんなに酒に弱かった?そうか、まだ高校生だからか。しょうがない。
 ヤンキーのバンドの番がやってきた。
「今日は俺の親友どもありがとう!さぁ行くぜー」
 女の子が胸を押し付けてくる。
 そう、こういうノリを高校生時代にしたかったのだ。

 そこで、目が覚めた。見知らぬ天井だった。年老いた両親と妻が寄ってきた。
「あなたったら、編集長に裏切られったからって、お酒を飲んでODするなんて。団塊世代なんて信じられるかなんてバカな遺書を残して」
「まったく良枝さんの言うとおりだ。父さんに話してくれればいくらでも助けてやったのに」
「子供だっているのよ。小説家なんてならなければ」
 なんだ、俺は不惑を過ぎてもロックンロールな生き方をしていたのか。



2015/09/24 (木) 05:32 公開
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感想・批評
するする読めて、これはこれでいいと思います。
オチも意外性をちょっと感じました。てっきりプログラマー時代に戻るのかと思っていたので。
3:  好感 7点 <gDyfaMJY>  2015/11/18 (水) 23:40
ひやとい
正直に言いますと、あらすじのように感じました。なんかこう、大雑把すぎて感想に困ります。
母親、父親、鈴木、良枝、ヤンキー。単なる記号と化している感さえあります。
ストーリーのなかで、辛うじて立ち位置がわかる。みたいなです。

ストーリーは「実は現実だった」オチなのか、「実は憧れの夢だった」のオチなのか迷いました。
と言うより、どっちつかずな感じでしょうか。よくわからん、と言うのが本音です。そういうのを狙ったのかもですが。

作品として、とりあえず淡白です。それがすべてに感じられました。
2:  <2WaWxK1Z>  2015/09/27 (日) 23:32
 最大の問題は、作者が他愛のないくだらない話を書いたことではなくて、読者が最後まで読まないとこれが他愛のない下らない話だと分からないために、楽しめないことだと思います。どうやら大人が高校時代の自分に転生して生きなおす話のように見えるわけですが、この転生前の大人がどうだったのかは隠されていて、転生後の高校生が「俺は二十七歳で死ぬんだ」とか言ってるのです。するとこの二十七歳での昇天はただのセリフとしての笑点なのか、今度は死から免れてやる! という物語の焦点なのか、わからないです。「ここ笑うところなの?」という疑問(悪口でいうのではなくて、本当に疑問なのです)が最後まで消えないということです。そしてどうやら笑うところだったらしいと分かると、落胆します。笑うタイミングを失っただけでなく、二十七歳で心ならずも死んでしまう男が若き日の自分に転生し、生き残りをかけて再挑戦する話の方がここに書かれた話より面白そうだからです。くだらない話をかくときは、誤解を招く筋はどんどん消して、くだらない路線しかないというのをはっきりさせてほしいと思いました。
 そもそも小説家といってるのに「ロックンロール」なのも意図がつかみにくいぼけだと思います。無頼派の文士で押すか、ほんとにロックンローラーにするかどっちかにしてほしいです。こういうのが増えると「叶えばなれる」も意図したぼけなのか作者が間違ったのかというあたりからわからなくなってしまいます。
1:  <ofSEru1G>  2015/09/25 (金) 01:16
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