荷役の一日 |
名無しさん |
ふう今日も荷物が多い。こりゃ、残業かな。まぁ、残業代で焼き鳥にビールでも楽しむか。 俺は倉庫の荷役をやって暮らしている。この暮らしになって十年か。それまでは印刷屋の職工だったが、デジタル化に乗り遅れて、いつの間にかこの職場にたどり着いた。 今は日払いの荷役だ。こんな仕事でも十年もやっていりゃ、頼られるようになる。フォークリフトを覚えたほうが時給はあがるが、免許を取りに行くのがめんどくさい。 毎日八時から働き始める。腕時計を見ると、十九時を指していた。 社員が声をかけたきた。 「今日はあがっていいよ。じゃあ、事務所に来て」 事務所に行くと事務員から封筒を渡された。中身を見ると、時給千円なので一万一千円入っていた。 倉庫を出て、愛車の50ccスクーターにまたがった。 一回、家に帰り、その後、飲みに繰り出すことにした。 焼き鳥屋の縄のれんをぐぐると大将が、「いや、お久しぶりですね。まずは生中でいいかい?」 「それとお任せで十本ぐらいとりあえず」 「あいよ」 ビールを飲むと、今日の疲れが吹き飛んだ。 落ち着いたところで、スマートフォンを出し、匿名掲示板の「場末の居酒屋」スレを覗いた。 さて、今日もどんな塩梅か。 そこで驚いた。俺の憧れの黒猫さんが攻撃されている。 「行き遅れBBA乙」 「若い奴に嫉妬みっともない」 おれはあわてて、「黒猫さんはそんな人じゃない」と里芋と言うハンドルネームで書き込んだ。 そうすると、 「二人できてんのか」 「よう荷役ごくろう」 そうすると黒猫さんが「あんな人好きじゃありません」と。 そこに焼き鳥が運ばれてきた。 がっかりした気持ちで焼き鳥を食べた。 ビールをおかわりしたが、なんか飲む気分ではなくなった。 なぜか、人肌が恋しいのでヘルスに行くことに決めた。 勘定をしてもらい。 行きつけのヘルスへ入った。 店員が俺を見ると、駆けつけてきて、「あんた、出禁だよ。さっさと帰らないと、警察を呼ぶよ」 一度、本番をしたことがあり、それが店員にばれたのか。 「あの嬢ならクビにしたからね」 ぼろぼろな気持ちになりながら、店を出た。余計なトラブルにする気もなかった。 家に帰り、PCで再び匿名掲示板を開くと、黒猫さんが古参の人たちと楽しそうに会話をしている。 参加しよと思って、「こんばんわ」と書き込むと。 「じゃあ、おやすみなさい」と黒猫さんが書き込んで、みんな「おやすみ」「寝ます」とネットから出て行った。 ああ、なんで俺はこんな報われない運命なんだろう。 |
2015/09/25 (金) 04:35 公開 |
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ちょっとだけ不運な或る男の一日を描いた作品で、ありそうでなさそう、なさそうでありそうなストーリーに好感がもてました。それに読んだ後、何故だか気持ちがほっこりしました。