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ひとり遠距離恋愛祭り・前編
ランダカブラ
 天慶・フェルマーダイン・ンゲラポポビッチは「クー」という音を出した。鳴いたのか音を出したのかはわからなかった。彼の瞳の中に映る世界は。それはマサオが見る世界と同じなのか。あるいは100万光年離れた地を見ているのか。見ている世界が違うなら、住んでいる世界も違うと君は言うだろう。
 君の名は、イタヤゴシ・ジェニファー。高2のときのクラス替えで、席が隣になったのがきっかけだった。淡い高校生の恋物語だった。
「おはよう」
「おはよう」
「今日は早いね」
「今から一夜漬けするからね」
「もはや一朝漬けだね」
「なんだか胡瓜みたいだね」
「テストの結果はどうだった」
「マサオのおかげで90点。問題、予想通りだったじゃん」
「今日も帰りに区民図書館行こうか」
「家庭教師代払わないとね」
「もうお釣りが出るほど貰ってるよ」
 イタヤゴシの手は小刻みに震えていた。昼はワイシャツが汗ばむほどの暑さだったのに、夜風はコートが必要なほど冷たい。あるいは、何かに恐怖を感じている? マサオをイタヤゴシの手を握ろうとしたが、握れなかった。その瞬間を今のように覚えている。一生悔やんでいる。
 そんな、歯の浮くようなやりとりがしたかった。しかし現実での君との出会いは、電脳世界のコミュニティだった。現実なのかバーチャルなのかわからないけれど。なぜ彼女がその電子掲示板に行き着いたか。なぜマサオがその電子掲示板に行き着いたか。それは長い物語となる。どれくらい長いかと言うと、紀元前3000年くらいの寓話に始まり、有名どこでは源氏物語や古今東西の文学作品から、鼻たれ小僧のほら話に及びざっと3億回くらい再記述を繰り返されてきた陳腐な物語だ。これに関してはかの有名なリチャード・ローティも、「ポストモダンの社会において新しい物語などありえない。全ては過去の語彙の再記述だ」と仰せている。ただ、何がこの2人を引き合わせたかについてだけ語ろう。絶望だ。動機は絶望だった。
 マサオは一流大学を卒業し、超大手企業に就職した。しかしそこにあったのは過酷な労働環境だった。繁忙期には1日20時間以上働かされた。過労で正常な判断ができなくなっていた。マサオにとってはごく日常のルーティーンを自室で行っているだけだった。しかし勘違いは、そこが自室ではなく電車内だったことだ。気づいたら自分のイチモツを出しOLのケツに擦りつけ射精していた。いや、正確に言えば、警察で取り調べを受けているときでさえ、まだ事態を把握していなかった。ようやく気づいたときには会社を解雇されており、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。復讐を誓った。
 パワハラや残業を強制した上司を1人ずつ闇討ちした。色々な方法で拷問した。元課長の断末魔と血しぶきは至高の蜜の味だった。計5人の静脈や動脈や性器の返り血を浴びた頃だった。逮捕された。家宅捜査の際、天井まで伸びた大麻草も押収された。久々のシャバに出たマサオに残された選択肢は、彼が考えた範疇において、小説家になることしかなかった。巨大掲示板の、小説家志望者が集うコミュニティに行き着くまで時間はかからなかった。そこで心を鷲掴みにし離さない投稿を見つけた。ペンネームは、「月子」

−後編へ続く−
2016/10/15 (土) 00:01 公開
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感想・批評
自室で押し付けているのは畳なのかクッションなのかはたまたエロ雑誌なのか、少しだけ気になるところである。
ところで私はエロ本に向けて射精するという発想がつい最近(と言っても数年前だが)までなかった。できるかぎり空を目標に射精する方が、花火のように高く舞い上がれる気がしたからだ。今では舞い上がるどころか、のろのろとやる気なく這うのがせいぜいだ。
1:  <u4Vd.zrn>  2016/10/15 (土) 01:52
ひやとい
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