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運命の人
ミナミノ
 死のうと思った。
 理由は単純。4年間つきあった彼女にふられたからである。他に好きな人ができたのだそうだ。全然そんなそぶりなんてなかったのに。
「これからもいいお友達でいましょう」
 デートの帰りに寄ったファミレスで、明るく別れを切り出されたぼくはあまりのショックにぼうぜんとうなずくしかなかった。
「じゃあ、また連絡するから」
 そそくさと店を出た彼女にぼくは何も言うことができなかった。二十年ほど生きてきたが、いまだに女の子というのは何を考えているのかさっぱりわからない。
ぼくはまさに魂がぬけたような状態になって、もう何もする気がおきなくなった。彼女はぼくのすべてだったのだ。

 彼女とはじめて会ったのは高校1年の入学式だった。彼女は正門のそばで桜の木を見上げていた。一目見た瞬間、全身を強烈な電流が走ったような、強い衝撃をうけた。ひとめぼれだった。彼女はぼくの運命の人なんだと思った。
 それからすぐに告白した。が、「あなたのことよく知らないし」と断られた。それでもぼくはあきらめずに、何度も何度も猛烈なアプローチを続けた。そして念願かなって高校2年の夏にぼくらはつきあうことになった。
 それからの4年間は幸せだった。
 目をつぶれば今でもはじめて手をつないだときのこと、デートで待ち合わせたときの心臓の高鳴り、映画館で手をつなぎながら観た恋愛映画、それらのひとつひとつの場面が浮かんでくる。
別れるなんて想像もしなかった。このまま彼女と結婚して幸せな家庭をきずき、子供が生まれ、孫に囲まれ、老後をのんびりと一緒にすごすのだと考えていた。それなのに……。
 もうあれほど好きになれる人は、運命を感じられる人には、出会えないと思った。そう考えると、もう生きる意味なんてないと思った。これからの人生を彼女との別れを悔みながら過ごしていくなんてまっぴらだ。
 屋上にあがると強い風が吹きこんできた。空はどんよりとした雲におおわれていて、今のぼくの暗鬱な気持ちをあらわしているかのように思えた。今にも雨がふりそうだった。
 確実に死にたいのなら地上20メートル以上から飛び下りればいい。ネットにはそう書かれていた。これは大体ビルの7〜8階にあたるらしい。このビルは11階立てだから高さは充分にある。ぼくは金網のフェンスをよじのぼった。
 フェンスの向こう側に立つと、風はさらに強く感じられる。恐怖はあったが、生きる気力を失っていたぼくには、ああもう少しで楽になれるという安堵のほうが強かった。もう覚悟はできていた。あと1歩ふみだせばすべてが終わるのだ。
 ぼくが死んだら彼女は悲しむだろうか。もしそうならその顔を少し見てみたいな。きっと悲しんだ顔の彼女も素敵だろうなと思った。
 ぼくは一度深呼吸をすると目をつぶり、ゆっくりと体をかたむけていった。体が重力にひかれて少しずつ落下していく。20メートル落下する時間は2秒ほどらしい。ネットにかいてあった。たったの2秒。それなのにひどく遅く感じられる。
 ぼくは目を開けた。不思議な光景だった。たしかに落下しているのに、それがひどく遅い。地面にたどりつくまでにはまだ時間がかかりそうだった。そういえば死ぬときには時間がゆっくりと進むのだと何かの本で読んだことがある。
 ぼくは必死に叫ぼうとした。
恐怖のためではない。自分が落下するその先に人がいたからだ。ぼくと同じ年くらいの女性だ。顔はよくみえない。長いきれいな黒髪をしている。このままではぶつかってしまう。ぼくは叫ぼうとするが声はでない。
 地面はどんどん近付いていく。女との距離が縮まっていく。すると、女がこちらを向きはじめた。ぼくに気がついたのか、たまたまなのか、雨が降りそうな気配を感じたのか、それはわからない。女の顔が少しずつはっきりとみえてくる。
 どうしてすぐに気がつかなかったのだろう。それは彼女だった。ぼくが愛してやまない彼女。大好きな彼女の顔がぐんぐん近づいてくる。その顔が恐怖にゆがみはじめる。はじめて見る表情だったけど、その顔も素敵だと思った。
 彼女はやはりぼくの運命の人だったのだ。
 やがて彼女との距離はゼロとなり、はじめて彼女と会ったあのときにも似た、全身を強烈な電流が走ったような、強い衝撃がぼくを襲った。
2017/12/17 (日) 22:56 公開
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感想・批評
ナルい男に振り回された哀れな女の一生という感じ。
1:  <Vp1PwBTG>  2018/01/02 (火) 14:53
ひやとい
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