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砂の浜
消尽スル箱爺
 一体全体どうなっているのか。モヤっとした何かを掴もうとしているけれど、何も掴むことができず、たぶん最初から無かったのか、それとも眼が霞んでいるからモヤに見えただけなのか、分からなくなっている。
 窓のソトの町の流れを見ていると、落葉樹から落ちる枯れ葉が横切る速度よりも早く、数人の制服姿の学生が通り過ぎる。
 何かを握力で捉まえて、逃がさないようにしていた拳を、開いてみたら、手の平に爪痕が残っているだけで、暫く見ていたらその手の平にできた、爪の後さえも、仄赤い後を残して消えていくような。
 時間に流されるように、何も無かったように、どこかに痕跡が残ることも無く、モヤとして消えた。
 毎日を、ただ仕事をして生きている時に、たぶんソコに辿り着きたかったところに居座っている人と出会った時、モヤは現れて、掴もうとしても自らの手が掴めないことを分かっているかのように、眉間に皺が寄って、手を延ばすことを止めてしまう。
こんな年齢になってまで恥ずかしい。あの頃のことを書いても、時代が捉まえられていない。こんなものは何の価値も無い。価値は誰のための宝物なのか。自分の宝物だったものを抱いて、そして握りしめていたら、握りつぶして、握った手の中でミイラになってミイラが粉々になって指の間から風に煽られて、いつの間にか手の力を緩めた時に、流れ去っていた。
 思い出して握りしめてもそこには何も無くて、無いことを知っているのに、ただ握りしめている。
「恥ずかしい」
 誰に何を、恥じるのか。
 町で出会う目つきの悪い若い男に、肩を押しのけられて、眼を三角にしても、ただの爺が凄んでいるだけで、相手にもされず、ただ握った拳で殴りつけようとも、社会規範でがんじがらめになり、若さでの勢いで殴りつけることもできず、その先に権力からの報復があることを痛いほどしっていて。
 頭髪に増えた白髪を掻き、若さに屈するポーズを取った。
 だけど、殴りつけないと、反応は無く、反響も、その先への自らの届かない、ずっと先の方まで、届くのかもしれない響きが、そこで殴りつけた音が、砂を殴るような鈍い音で、何も響かず、砂に吸収されていく。
 拳の先が、ヒリつく痛み。
 それは、捨てて、捨てて、捨てきった残骸で、粉のようになるまで握りしめながら、足元にまき散らして、誰にも知られずに砂になった残骸。
『今更、今更、どうした』
と、眼を細めた異形の面を被った乱雑頭の男が酒臭い息を吹きかけてくる。
 何日も風呂に入っていないような男は、どうした。今更。終わった。終わった。と低い声で耳元に投げつける。風呂に入ったら終わりだと男は思っている。そう、終わりを決めるのは自分なのだ。男は手の平で天を突くような動作で、左右の手を交互に突き上げる。
 どこの国の言葉か判然としない音の羅列で、男は足を膝から交互に折っている。それが何かどこか呪術の舞のようで、男の垢で固まった髪の毛が、男の踊る間、僅かに震える。
「辛く、苦しいのか」
 たぶん、恐らく、きっと、そんなことは無い。楽しい、嬉しい、そんなはずだ。
 秒針が動く一瞬が、秒針を見た瞬間止まっているように見えるように、そんな風に時間は1秒ごとに停止している。停止した時間で、逆行することができれば、いつの間にか終わりが始まりで、もう一度別の世界で、逆の、答え合わせをしながら生きることのできる、現世のような、答えの分からない、不安だらけの世界からおさらばして、何かを、握りしめたあげく握りつぶして、誰も気にもとめないような。
 どこへ向かえばいいのか。全てをそれだけに向かえることができれば、自分を信じることができず、保険や安全策を張り巡らせている内に、拳の中を育てることを怠ってきた。
 気を失うまで悩んで、残りの僅かな何かを拾い上げようとして、砂の一粒を舌の上に載せて、味わおうとすると、なぜか塩の味が口内に広がった。
 今日も波が高いのか。
2024/01/18 (木) 01:53 公開
2024/01/18 (木) 01:58 編集
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感想・批評
2回読み返しましたがよくわかりませんでした。
1:  <UHPdrLBY>  2024/02/10 (土) 01:03
ひやとい
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