痴漢されるオンナ<文芸部祭り参加作品> |
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石助: 放課後、街で遊び、帰りの電車に乗った女子高生が痴漢に遭う。そして―― |
「ちょっと、もう、マジやだ! あんた、お尻触ってたでしょ!?」 電車の中で、私は自慢の細い腕を伸ばして、やらしい手つきをする男の手を掴んだ―― 電車の中は込み入っていた。 外は雪の舞う寒さなのに、電車内は暖房と人いきれで暑くなってた。背の低い私は息をするのも、やっとって感じだった。会社帰りのサラリーマンやOLがたくさんいて、高校終わりに街で遊んでた私は意味もなく責められてるみたいでちょっと居心地悪かったね。 あー、あと一駅で家のある駅に着くなあ、なんて思ってる時だった。 ぞわりと背中に怖気が走ったんだよね。 痩せぎすの私のお尻が誰かに触られているんだ。大きな手の平が私のお尻を揉んでいる。 嫌……キモイ……そう思ったけど、すぐには声が出なかった。息が詰まってたんだ。 大きな手の平がつうっとお尻から股の間に移動しようとした時、もう限界だった。 私は大きな声を上げて、男の手を掴んだんだよね。そうしたら、電車内がざわっとしたのが分かった。みんな、動揺してる。当たり前だよね。痴漢の現場に居合わすことなんて、なかなか無いもんね。 私は掴んだ男の手を離さないようにして、周りに助けを求めたんだ。 「誰か、この人が暴れないように、駅員さんに連れて行くの手伝って」 当然、誰かが助けてくれると思ってた。――なのに、みんな黙ってる。 え、どういうこと? なんで助けてくれないの? 女子高生が痴漢されてたんだよ? 周囲を見やるけど、私と目が合うと、さっと目を逸らすんだよね。 その時、背後の男――痴漢をした男が不機嫌そうな声を出したの。 「いい加減にしてください。私は何もしていませんから」 丁寧な口調なのが苛立ったね。 「でも、触ったでしょ。やらしい手つきだった!」 私は後ろを振り向いて、男の顔を見上げたの。私と目が合うと、その男が気まずそうに目を逸らすの。……怪しい。何も悪いことしてなかったら、私の目を見れるはずだよね。 こっちを見ない男はなおも「やっていない」って繰り返すの。 その時ちょうど、私の降りる駅に着いた。ドアがプシューって音を鳴らして開く。 私、自分が降りる時、男の腕も引っ張って、引きずり出してやったんだ。誰も助けてくれないなら自分で駅員さんに突き出してやろうと思ったんだよね。 電車はすぐに走り出しちゃった。電車から降りた人たちが、私たちをちらちら見ながら改札へ向かってた。 「今から駅員さんとこ行くから。マジ許せないからね」 「ふざけるな! 誰がてめえなんて触るかよ!」 突然の豹変。怒鳴り声。私、びっくりして、男の顔を見上げたんだよね。そしたら、男が、ぺっ、と私の顔につばを吐きかけたの。粘っこくて生暖かい液体が私の頬を垂れてった。 男が私の手を振り払うと、改札に向けて走ってった。 家に着いて、ようやくスマホに留守電が入っているのに気付いたんだよね。スマホを操作して、伝言メッセージを再生してみた。声が聞こえる。焦ったような声。若い男みたい。 『何やってんだよ? 今どこにいんの? 忠行だけど、お婆ちゃん、連絡くれよ』 忠行……? お婆ちゃん……? 『薬は飲んでるの? 精神病院、勝手に抜け出したって? 探してるんだけど、警察は失踪扱いで役に立たないし、連絡ちょうだい』 あれ……、そういえば、白い壁に白い天井、白いベッドに……。おかしいな。私は毎日、高校通って、街で遊ぶのに忙しいし……。 『薬飲まなきゃ妄想でおかしくなっちゃうでしょ。お婆ちゃん、本当に連絡してよね。孫を悲しませないでよ。俺、お婆ちゃんのこと、ちゃんと見てなかったって後悔してんだよ!」 あれれ……。でも、私は女子高生で、孫なんている年齢じゃないし、そっか、きっと、間違い電話なんだぁ。 私はスマホを放り投げると、洗面所に向かった。つば吐かれた顔を洗わないとね。 薄暗い洗面所で手を洗って、ふと顔を上げると、鏡に私が映った。 白髪が伸び放題で、皺だらけの顔。まぶたの垂れた目に、乾いた唇から除く口内には乱杭歯。え、これって私……? だって、これじゃあ、どう見ても、私は―― |
2013/12/22 (日) 23:27 公開 2013/12/23 (月) 11:11 編集 |
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