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マイナー作家の死<文芸祭> 準参加
サイクロン: 日本には円環的思考が欠けている
老人の首には痰を取るための穴があけられ、口には呼吸器が付けられていた。仰向けの状態で目を瞑り苦しそうにあえいでいた。昨日見舞った時はおかしな器具らは何も付けられず、長いこと、若い頃の奔放な生活のことを悔いているのだろうか、涙を流しながら、昔語りを続けたのだったが。あまりの容態の急変に私は驚き唖然とするばかりだった。だが、そもそも彼がこの病院に連れてこられた経緯自体が急展開に過ぎた。彼は一人暮らしの自宅から、むりやり攫われて強制的に老人介護施設に入れられ、そこで原因不明の急病を発症するまでが、たったの1ヶ月で、それから入院して今日の救急救命室に至るまでがたったの10日である。言い忘れたが、彼は30代の頃から攫われるまで自宅で私塾を営んでいた。
 彼が40年以上も昔の教え子らに踏み込まれ、攫われて車に乗せられ、強制的に老人介護施設に入れられたのは年の暮れだった。彼は抵抗し、逃げようとした。だが、向かったのは自宅ではなく、遠い山間部にある故郷だった。そこには既に彼の実家はなかったのだが。追い掛けて来た介護施設の人間らに捕まり、戻された。そんなことも知らずに、正月も開けてしばらくして訪ねて見ると、どうも人の住んでる気配がないので彼の知人に聞いてみれば、長たらしい名前の介護施設を言うので、その通り書き取って電話帳で調べてもさっぱり分らず、彼を攫ったという、教え子らの名前を聞き、その者らに聞いてようやく施設の正確な名称が分り、訪ねた。割と元気そうに見えたが、やはり、そこに居たくはないことは私が聞いた。だが、「出たい。」と、までは彼は明言しなかった。それからは4、5日ごとに会いに行った。
今にして思えば、彼には戻る所がないのであり、かと言って、そう親しくもない私のところに住まわせてくれとも言えなかったのだろう。第一、随分昔のかつての教え子ふたりに自宅にいきなり踏み込まれて、力づくで知らない場所に連れて来られれば、誰でも精神が混乱するはずではないか?
 彼は20年以上も前に、ちょっとした文学賞を取った人であり、3〜4年に1冊ぐらいの割で歴史小説を書いていた。賞の受賞作は日本の明治維新後まもない頃の、辺境山間部の農民達が起こした一揆の顛末を描いたものだった。一読して私は感動し、作者に会いに行った。だが、その頃の私は作品の価値をそれほど理解していなかった。今、googleで検索してみると、彼のテーマに関係した英語の論文が一杯出て来るし、海外でそのことに言及した本も多数書かれていることが分った。だが、今にして思えば、この作品が、森鴎外の『堺事件』とセットにして読まれるべき価値のある作品であることが分る。明治維新前後の日本の辺境の西洋人嫌い、反感から鴎外は意図的に目を背けた。その点では、鴎外の『堺事件』の批判者だった大岡昇平も同様だろう。
 彼の着眼したのは四国山間部の民俗だった。それを最初に小説で取り上げた点では彼はパイオニアだったと思う。小品ではあるが、ここで私が特に言葉を尽くさなくても後世に残る作品だろうと思う。
 人攫いと言えば、私はまず、鴎外の『安寿と厨子王』を思い浮かべる。そして同時に
人間の自由を奪う牢獄としては『菊花の約』を思う。両方とも日本の中世の悲惨さを良く描いていると思う。ポストモダニストや網野、阿部らの歴史学者らは中世を美化し過ぎた。その結果が某宗教団体や何とか連合の横暴ではないか?日蓮宗などの鎌倉時代起原の都市型仏教こそは人攫いの実行者そのものだった。


2013/12/24 (火) 06:14 公開
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感想・批評
丸山的なやつですか。
1:ひやとい <x8/XqZUh>
2014/01/14 (火) 02:14

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