0214 <バレンタイン祭り参加作品> |
---|
押利鰤鰤 ◆1zHf6crhd.: <バレンタイン祭り参加作品> |
2月14日はバレンタインデーである。そしてそのバレンタインデーが今日だった。 バレンタインデーというのは日頃の思いを募らせた乙女が、その思いをチョコレートに込めて惚れた男性に渡すイベントである。もちろん渡す相手は異性でなくても同性でも構わないのであるが、僕は同性からチョコレートを貰いたいという性的嗜好もなければ、知らない世界の話なのでここでは省略させてもらいたい。 十七年間生きてきた僕の過去の戦績を言えば、記憶のあるものだけを会わせると11個だ。当然のように全てお母さんからである。ちなみに二つ年下の弟は中学入学以来毎年2月14日になると、冷蔵庫がチョコレートで埋め尽くされる事態となっていた。どこで差が付いたのかと思う事もあるが、そんな事を嘆いたところで仕方あるまいとも思う。言わせてもらえば僕は真の愛情がこもったチョコレートをただ一つだけ欲しいだけなのだ。お母さんでなく。 今年こそは真の愛を、と思っていたのだが不運な事に僕は三日前からインフルエンザに倒れ、家で寝込んでいたのだ。 高校生である僕が学校以外でチョコレートを貰えるチャンスはゼロに等しい。家まで届けてくれるような奇特な女生徒はもういない。 ピークは過ぎたものの、まだ少し熱っぽく、少しぼうっとする頭で今年の戦果はお母さんからの一つだったなと言う観想を持つ。さて、何歳までお母さんからのチョコをカウントして良いのだろうかなどと、どうでも良い事を思ったその時、来訪者を知らせる呼び鈴が鳴ったのであった。 平日の昼過ぎ。父親は仕事に行き、母親は買い物に行き、弟は学校に行っているので家の中には僕しかいなかった。インフルエンザだし、調子悪いし、このまま居留守を使おうかなと思ったが、まかり間違って僕にチョコレートを渡しに来た女子だったらどうしようかと考えたのである。普通に考えれば僕の通っている学校ではまだ授業が行われている時間であると言う事に、熱にやられた僕の頭は即座に反応する事ができず、気が付いたときにはもう玄関のドアを開けていたのだった。 「潮糀くん、大丈夫?インフルエンザって聞いたけど」 そこにいたのはクラスメイトだった烏丸千桐さんだった。 「か、烏丸さん?どうして?」 「どうしてって、今日はバレンタインデーでしょ。前にいつも誰からももらえないから次のバレンタインデーにチョコレートを頂戴って、涙ながらに土下座したじゃない」 彼女はそう言いながら、チョコレートをポケットから取り出すと僕に差し出した。 「……たしかに土下座はしたけれど、涙ながらじゃないよ」 僕は彼女からチョコレートを受け取りながらそう言った。いま目尻に浮かんでいるのは汁である。 烏丸さんとは二年に上がったときに同じクラスになった。人当たりも良く、温厚で気さくな性格は誰にも好かれていた。 「じゃぁ、約束通りにチョコもあげた事だし、そろそろ私はいくね」 クラス委員長としてみんなをまとめ上げ、わけ隔てることなく接する姿についたあだ名は「お母さん」だった。 「ちょっとまって、ホワイトデーのお返しは何が良い?キャンディ?マシュマロ?クッキー?それともアダルトパンティー?」 そんな彼女は本来ならば、今日ここにいるはずはないのだ。 「いらない。だって、わたしもう死んでるもの」 彼女の言う通りで4ヶ月ほど前に彼女は交通事故で亡くなっていたのだった。クラス全員でお葬式に出たし、亡くなってから一月は彼女が使っていた机の上に花が飾れていた。 「だから、これで本当にさよならよ」 烏丸さんはそういって笑うと、姿を消した。 僕は買い物から帰ってきたお母さんによって、玄関先で倒れているのを発見され救急車で運ばれて入院した。 インフルエンザを拗らせて肺炎になりかけていたそうだったが、その後は順調に回復し退院することが出来た。 僕は日常に戻り、ホワイトデーのことを考える。烏丸さんの好みは結局聞けなかったから、キャンディ、マシュマロ、クッキー、アダルトパンティーを全部買って、彼女が眠るお墓に持っていこうと思う。僕はそれくらいしていいだろうと思った。 |
2014/02/04 (火) 23:38 公開 |
作者メッセージ
メッセージはありません。 |
この作品の著作権は作者にあります。無断転載は著作権法の違反となるのでお止め下さい。 |