彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった |
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つしたらのし: 創芸戦1回戦 第2試合 |
さっきまで白っぽくて明るい室内だと思っていたけれど、今はなんだか暗く感じる。2週間ほど前には考えられないくらいの日差しがある窓際で、窓の外にかけられているプランターを目にしているからかもしれない。やはり庭園は空中にある方がみんな嬉しいのだろう。 2人分にはすこし狭いと思えるテーブルの上に緑のテーブルクロスに白いテーブルクロスが重ねてかけられている。ガラスの器に盛られた緑の野菜にも白いドレッシングがかけられていて、そのサラダをとるフォークを持つこちらに向かって伸びた手も白かったが、ぼくにはこの手が一番白く感じられた。 「なんだか秋より痩せてる気がする。ちゃんと食べてるの」 「いや秋から体重は変わっていないよ」 そう要領を得ない答えを返しても、彼女は笑っていた。 「最近忙しそう」 忙しくはないけれど否定するのも悪い気がして、 「そうだね。そっちはどう」 と差し障りのないことを言った。 彼女はこの質問を待っていたらしく、自分のチームの状況について控えめに文句を言った。ぼくは正解することができて少し嬉しかった。 このままパスタを食べながら彼女の話を聞き流してこの時間は終わる、そう思っていたけれど彼女は黙ってぼくをじろじろ見て、 「スープが減ってないよ」 そう言ってぼくが話す番になった。 「好き嫌いはよくないよ。痩せてるんだし」 ぼくは「これは好き嫌いじゃない」と言いたかった。だって、野菜嫌いならまずサラダを残すでしょう、春野菜のスープより。ぼくは野菜が嫌いなんじゃなくてこれがダメなのだ。 ぼくの母はキリスト者で篤信の人だった。母は小学4年生になっても小柄なぼくを心配した。そこで、ダニエル書に出てくる4人の少年のようにぼくを試し十日間、食べる物は野菜だけ、飲む物は水だけにさせたのだ。もちろん母は狂信の人ではなかったので、野菜を洗ってそのまま出すようなことはしなかったが、消化に良いよう工夫した結果野菜スープが種類を変え毎日のように食卓にのぼった。小学4年生の10日間というのは今では考えられないくらい長く、そのころ別のものを食べた気がしないほどだ。そういうわけで食べる前から飽きているのだ。 しかし、女性と二人きりでいるようなときに宗教の話や母親の話をするというのはスマートではない気がしたので、ぼくはそのまま口をつぐんで、もう一度開きスープを相手に見せるようにゆっくりと2、3度口に運んだ。 「白こしょうの香りが爽やかだね」 野菜嫌いではないと強調するため、もうひと押しすると彼女は 「ああ、白こしょうだ。よくわかったね。すごい」 と言ってから、喜びの表情を浮かべながらスープをもう一口飲んだ。 彼女の表情は明るかった。去年の今頃、彼女はちょっとだけ疲れていた。そんな彼女を見て、ぼくも少しだけ優しくした。彼氏がいることは聞いていたから少しだけだ。でも、今日の彼女にそれは必要ないみたい。 「久しぶりに話せてよかった」 彼女はまだ笑っている。ぼくは、彼女の笑顔をちらりと見てから、飲み終わったカフェラテのカップを見た。丸みをおびて白かったけれど、白い泡や茶色いシミがなんだか目立つ。 ダニエルと一緒に野菜を食べていた3人は、あるとき燃える炉に投げ込まれたけれど何の害も受けなかったらしい。今日のランチタイムはいつもの七倍も熱く燃えている炉のようだった、でもぼくから火のにおいはしない。やっぱり野菜を食べることは体にいいんだ。そう思って、残していたスープをもう一口だけ飲んだ。 |
2014/02/27 (木) 23:22 公開 |
作者メッセージ
野菜スープ |
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