金髪天使と短髪髭野郎 |
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石助: 創芸戦1回戦 第四試合 |
「私たちは孤独だったわ。そう、まるでストリートを当てもなく彷徨うチルドレンのように。けれど、出会った。外見の強烈な優劣の違いにより偏見が起こるなんて、この中学はなんて愚かなんでしょう」 僕とミラはいつも二人っきりだった。ミラはその美しさ故に周囲の学生に疎まれ、僕は醜悪な見た目から遠ざけられた。 ミラの瞳を見つめる。黄色人種では届きえない美しさに僕の毛むくじゃらの胸がどきどきした。だから、僕は言ってみようかと思った。ゆっくりと口を開く―― 桃色の花をまとった桜の木は美しかった。 僕は中学入学以来、友人ができずにいた。それは外見によるものだった。巨体に髭面、短髪の容姿は強烈だったらしく、誰もが僕のことを避けた。僕も同じ中学生だというのに。僕が教室の席に座っていると空気が緊張をはらんだ。何故、お前がここに居るんだという無言の圧力を感じた。 孤独に慣れていた僕ではあったが、中学では何かが変わるんじゃないかと期待もしていた。けれど、それは夢であったようだ。 僕は校庭脇にある桜の巨木を眺めていた。雄大に咲き誇る桜に力強さを感じた。 桜の木の下に死体が埋まっていると担任が笑って喋っていたのを聞いてから僕はここへ足を運ぶようになった。 ある日、桜の木の根元に座って、本を読んでいる少女を目にした。僕はその少女の姿に驚いた。金髪碧眼の白人だった。 「美しいものを愛でる心を持つなんて、見かけによらないわね。あっと、失礼。そんなことを言ってしまう私こそ、この場にふさわしくない存在なのかもしれないわ」 桜の花がはらりと散る中、立ち上がり、金髪を躍らせた少女が妖艶に微笑んだ。少女が何を言っているのかは僕にはよく分からなかった。 「ミラって言うの、私の名前。そう呼んでくれて構わないわ。ここの桜の花って素敵ね。咲いては乱れてゆく。それって悲しい運命のよう。そう、私のようね。ここの美しい色を帯びた桜の花に私は自己投影してしまうわ。何よりも強烈な花は周囲より浮き出てしまうのよ。美しさは罪であるのね。仕方のない事なのだけれど」 ミラは口の端を上げて笑んだ。 難しい事を喋るミラが何を言っているのか分からなかったけれど、クラスメートと違い、僕を拒絶しない事に喜びを感じた。 僕たちは桜の木の下で毎日出会うようになった。 「現代社会の歪みっていうのかしら。日々の生活を通して、私はそんなものを感じてしまうの。彼らの視線は異物を排除しようとするのよ。はらはらと舞う桜の花の下でこんな真面目な話って似合わないかしら? けれど、いいの。私は私でありたいから。何者にも染まりたくはないわ。他者に迎合する人間を見てごらんなさい。醜いものよ。クラスメートや同級生が互いに浮かべる媚びへつらった笑み、そんなものを浮かべるような人間にはなりたくないのよ」 歌うように語るミラに美しさを覚えた。 僕の心に中にミラのように語りたいという思いが芽生えた。 僕はミラの目を見つめて、口を開いた。 「外見とは即ち記号である。最も安易な記号。人はそれに振り回される。しかし、それでいいのだろうか? 桜の木の下で、桜の花が降り切ろうかというこの季節に僕は考えてみるのだ。それは尊い思考であり、純粋な疑問である。桜の花が妖精であるなら、その妖精はどう答えるだろうか? 妖精たちは僕たちを見てきた。その生涯を通して。ならば、妖精たちは僕らの外見ではなく、本質を見たのではないだろうか? そして、妖精たちは微笑みながら言うのだ。あなたたちは美しい、ってね」 言えた。ミラのように、難しい感じですらすらと言えた。 喜びを感じる僕に対して、金髪の縁取りをしたミラの顔が絶望したように醜く歪んだ。 「え……? 私ってこんな感じでいつも喋ってるの? ショック―……そりゃ、友達出来ないわね……。人の振り見て我が振り直せってね。あっ、こういう台詞がいけないんだ。いけないいけない。もうアンタとは話さないから。じゃあね」 僕は呆然とした。去ってゆくミラの背中を見る目が涙で滲んでゆく。何が間違っていたのだろうか。桜の舞う中、僕は春に闇があるとすれば、こういうものだろうと震えた。それは裏切りの味をしているに違いない。 |
2014/03/01 (土) 13:47 公開 2014/03/01 (土) 13:48 編集 |
作者メッセージ
お題「春の闇」 |
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