創芸バトル戦結果 |
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覆面ジャッジ: 「創芸戦1回戦」 |
●第1回戦対戦作品結果発表/覆面ジャッジ 結果はそれぞれの寸評の末尾に記載しています。 第1試合 結果 木爪さん/春の宵雨 VS 押利鰤鰤さん/春闇 木爪さん/春の宵雨 初見、春の宵に妊婦のこころが敏感になるという、 ふわふわとした物語。……なのか、と読み進めたのだが、 どうにも違和感がともなう。 というのも物語の終わりで、『あんなに子どもに対して 力を持つ母というものになるのだろうか。なれるのだろうか。 なって、いいものなのだろうか。』と主人公はみずからに問う。 『チカラを持つ母』とは誰のことか。『きいちゃんのママ』なのか。 ならば、回想には後日談があるのでは。それも危険な母子のドラマが。 そして、『目を閉じて祈る。育花雨よ、どうか私を母にして。 私の腹のなかの胎芽を、どうか育てて。』と結んでいる。 なんともあやふやで難解な独白。もちろん育花雨の言葉の意味は、 調べれば読者も理解できるのだろう。 だけれども、なぜ、育花雨に主人公は 胎児を託すのか。そこに、みずからの手では育てられないなんらかの 理由が存在するのか。 ワタクシはこの作品になにか危ないにおいを感じているのですが。 その正体が読みとれません。それは深読みなのか、 作者があえて情報をセーブしているのか。 もうひとつ。これが物語を解くキーワードなのかとおもえる 『指輪』の存在……まるでわからない。 いずれにしろ、この作品はミステリーだとおもえます。 どこかに伏線を張り、謎を解く所作をつくりこんでいるのでは? 意図を作者に解説願いたい。 それから、二重、三重の呼称が気になった。 私、春、雨、など。読み手はとまどう。 雨にしたって、さまざまな意味を持つ言葉をつきつけられると 読み手は混乱します。どうしたって、あらゆる表現をメタに 使うと真意がぼけてしまう。 読み手にそれほど期待してはいけません。 読み進めながら言葉のウラに隠されたものを探ろうとは しないんじゃないのか。 言葉の持つ意味を調べればわかるでしょう。 これでは書き手の自己満足で終ってしまう。 ★評価/普通6点 押利鰤鰤さん/春闇 まず、短い物語の導入部に必要な条件のひとつに、 主人公の情報があるとおもいます。 これはもう、いわずもがな。書架にある短編小説集をめくれば、 導入部で、まず主人公の名まえと性別が認識できる つくりになっているはずで もしもそのことが伏せられている物語であれば、 おそらく主人公のプロフィールが主題になっているのでしょう。 というところで読み進めると、腹を刺された主人公は 女性だった。と判明する。ここがまず最初の違和感。 そして物語は中学生の親友とのエピソードにかわる。 それが腹を刺された主人公とどうのようなかかわりがあるのか。 作者は素通りしているようにおもえる。 「大丈夫。そのまま先に進みなさい。ちーちゃんなら大丈夫」 と物語の最後に親友の敦子に語らせるが、 それもなんだかよく読みとれない。 そして物語は、死のフチの主人公が、中学で夭逝した 親友とのひと夜を走馬灯のようにおもい出し、 「もう一度、彼女に会える事を願いながら、春の闇の中を軽快に 突き進むのです。』と締めてゆく、 そして主人公は生還する。(?) ただ、それだけの物語をさらり、書き切った。という印象です。 『私と親友、敦子』の関係をもっとつきつめて書けていれば 最後のおもいにも説得性があったように考えます。 おそらく『私』と『敦子』は親友を越えたなにかで結ばれていた。 そんなふうにうけとめられました。 そこが上手く表現できなかった、あるいは作者は避けた。 との印象があります。 ちなみに、『私』を『アタシ』。親友『敦子』を『敦子さん』に 変換して読んでみました。作者に対しては、 非礼きわまる愚行を働いたわけですが。 ワタクシにはそのほうが、しっくりときたのです。 もちろん、これがベストということではなく。 ワタクシの疑問に応えてくれるような気がしたので…… >>「ねぇ、どこにいくの?」 「この先にある小山の上に登ると、朝日がとても綺麗に 見えるのよ」この土地で生まれ育ったアタシでしたが、 そんな所があっただろうかと思いました。 そんな場所を知っていて、つまずく事もなく歩いている 敦子さんは、こんな風に一人で早朝の散歩に出かけているのだろうか と思って、アタシはとても重要な事に気が付きました。 たしかに敦子さんは一人で早朝の散歩に出かけていました。 そして崖から落ちて死んでしまったのです。 それはアタシ達が中学への進学を間近に控えた、 今日のような春の日の事でした。アタシがそう気が付いた瞬間、 敦子さんに握られていたはずの手の感触は無くなり、 アタシは暗闇の中に放り出されたような状態に なってしまいました。もう、前も後ろも解りません。 「大丈夫。そのまま先に進みなさい。ちーちゃんなら大丈夫」 敦子さんのやさしい声が遠いところから聞こえてきます。 姿は見えません。ただシャンプーの良い香りが微かに感じられる だけです。アタシは敦子さんの声が聞こえた方に向かって歩き出す 事しかできません。もう一度、敦子さんに会える事を願いながら、 春の闇の中を軽快に突き進むのです。そして、 アタシが光りの中に包まれて、次ぎに目を開けた時にいた場所は、 集中治療室のベッドだったのです。 ★評価/普通5点 ★よって第1試合は『木爪さん/春の宵雨』が 僅差で勝者となりました。 第2試合結果 つしたらのしさん/ 彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった VS ポッポさん/本を読む つしたらのしさん/ 彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった うーん。審査員泣かせの作品ですね。 表題を眼にした印象は、かのノーベル賞連続落選日本作家の亜琉か。 ともおもえたのですが、物語を読み進めると、異質であった。 し、難解である。 ただ、お題『野菜スープ』を念頭につねにかかげて読んでいれば、 作者はさまざまなおもいを文章で紡いでいるんだな。 ということがなあんとなくつたわってくる。 が、しかし、国籍不明。時代不明。職業不明の『ぼく』と 『彼女』の短い物語には不安がつのるだけである。 まるで硝子の容器に盛られた野菜のなかから茹でたアスパラガスだけ をテーブルの上に置かれたようなこころ持ちがした。 さて、再々読に及んだ結論である。 ワタクシは白い一枚の紙を用意した。 下方に山並みを描き。その麓に色とりどりの野菜畑を描く。 中央よりほんのすこし下にふわふわとした雲を浮かべて、 さらにその上に、緑のテーブルクロスに白いテーブルクロスが重ねて かけられている小ぶりなテーブルを描いた。 宙に漂うテーブルではカップルが食事をしている。 表情は食器に隠れてよくわからない。 それはまるでフランスのイラストレータ、 ペイネに倣ったタッチで描かれる。 そして、表題『彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けている どの少年よりも良かった』とかかげられた短い小説を 上方にホワイトスペースをたっぷりとって、 タテ組みでレイアウトしてみた。 組あげた文章からちょっとひと呼吸置く感じで、 上品な書体でキャッチフレーズをあてこんでみる。 ――野菜をもっと食べましょう。キューピーマヨネーズ。 企業広告に添える物語であれば、 なんだかしっくり馴染むような印象を持ちました。 ★評価/微妙3点 ★ポッポさん/本を読む 読後、ずいぶんと老成化した十八歳だ。単純にそうおもえた。 自己の内に向けたさまざまな痛楚で、通りすがりの女性に 救いを求めてしまう。 そこに酒の悪戯があったのかはわからないけれど、 女性を追った書店で『私』は悪酔から醒めたのか、現実を知る。 その現実が、停滞せずに海のように動けよ、 とまるで宗教家からの進言のように 『私』を教唆してきた。それが『私』にとって希望の光へとつながる。 缶ビールから文庫本に持ちかえた手がつかみとるのはなんだ? 希望を抱かせる締めかたはフランス映画を観るおもいでもあった。 というか、純文学の正しい終わりかたなのか、 ワタクシには判断が困難である。 公園でやさぐれる受験生。女性に救いを求める行動。 本作は前半と後半でジョイントされているが、あいだになにか ドラマがほしかったなあ。とおもいます。 たとえは悪いけれど、新入学の小学生にじっとヤな視線を 投げられるとか、なかむつまじく下校する高校生のカップルに 毒づかれるとか…… なぜそんなふうにおもうのか、 さらに主人公の悲惨な造形を描きこめば、 最後の希望には読みの感情を動かす要因になったのでは、 と考えるからであります。 文体は中原昌也をおもわせる、おかしみがあって悪くはない。 そう感じられました。 主人公の呼称が俺から私にかわるのは、心情。それともたんに誤り? ★評価/普通6点 ★よって第2試合は『ポッポさん/本を読む』が僅差で勝者となりました。 第3試合 オチツケさん /野菜スープ VS 593さん/春童 オチツケさん /野菜スープ すらすら読ませる文章力は危なげがない。 原稿用紙五枚のなかに少女(大学生ではなく、高校生?)たちの 純粋な生きかたが投影できているとうけとめました。 それはとてもはかないもので、まさに窓外に舞う雪のようでもある。 だけれども、小道具にO・ヘンリーの小説を持ち込んだのは、 チエが不治の病に侵されているというメタなのであろうか。 だとすれば、チエは『私』に救いを求めた。 それは恐怖から逃れるために強く抱きしめてほしいという 願望のあらわれだったのか。 なんだか古き良き昭和のサナトリウムのにおいがする掌編であった。 って、ぜんぜん寸評になっていませんが、 実はワタクシこの手の小説が不得手なのであります。 堀辰雄とか我慢にガマンを二重羽織りして挑みましたが撃沈しました。 それより、『三匹のおっさん』だとか『永遠の0』だとかを 手にしてしまう安直者なのであります。 まあ、ワタクシの性癖といったものはどうだってよろしいんですが、 当該作品は、はかなく、美しい物語だった。と評価をしましょう。 投げやりで申しわけない。 ★評価/好感7点 593さん/春童 磨李はなんて残酷なヤツなんだ。 櫻の枝で自棄する女を早よう救わんかい。 じっと時間を浪費して、線香をたむける。オツム弱いんかい。 と突っこんでしまいました。 小説の書き手はさまざまな言葉を選択します。脳のスジにぽこり、 盛り上がった物語をどのような文字で翻訳すれば、 上手く読み手につたわるのか。 ときにやわらかく。ときに動的に。ときに繊細な言葉に…… その感覚が読み手にうけいれられたときに小説としての 完成度が結実するのでしょう。 当該掌編は、狭小なる制限枚数のなかにこれでもかぁ。 とこだわりを見せ、重厚な物語を紡いでいるようにも うけとめられます。が、しかし。このことには、 ほどほどという制限があるのではないでしょうか。 というのも、わずかの枚数でありながら読み終えるのに、 ひどく疲労感を憶えました。難渋苦汁しました。 本音でいえば、ちょっと親切ではないなぁ……と 肩を揉みほぐしたのであります。 で、結局のところ、どんな物語であったのか、 華やぎを支える櫻の根もとが、 無数に揺れる、はなびらに邪魔されて見失われてしまう。 ただ、ただ、言葉の装飾だけが表層にきわだち読み手は 翻弄されてしまう。 そんな平成遊廓絵巻におもえました。 ★評価/普通4点 ★よって第3試合は『オチツケさん /野菜スープ』が 勝者となりました。 第4試合 天上天下唯我独尊だおさん/ポリフォニック ミネストローネ VS ランダカブラさん /或変態の一日 VS 石助さん /金髪天使と短髪髭野郎 天上天下唯我独尊だおさん/ポリフォニック ミネストローネ 極彩色にべとり染まった会話。モニターに展開される映像は おそらくどの彩にも染まっていない。しいていえば、無機質な信号。 ちかちかと注意をひきつけるシグナル…… その色を塗りつけるチューブの口は直接、脳のシワのなかを埋める ようべとり、塗りつけられてゆく。 それは、官能でもなく。懐古でもなく。現実でもない。 ならば、物語の塗りつけられているキャンバスはどこにあるのか。 そんなふうに、問う。おそらく作者はこうぶつけてくるのだろう。 誰もが応えを求めるが、 誰にも応えは用意されているわけじゃないお……と。 つまり、ビットの世界に物語を投影したが、 それは時代感覚であり、作者にとって、必然的なものではなかった。 ある意味で標本空間の部分集合を記号的に表現した。 だけのこと。そこに、わずかドラマ性を放りこんでやる。 なんとも意地の悪い作風ではないか。 おそらく、なるほどと、あごを引く者はすくないであろう。 が、しかし。作者の言動をさまざまな板で知る読者は、作者の進化を 今回の作品に認めるのではないだろうか。 『あたし達から逃げたおまえは、野菜スープに興奮して シコる変態になったんだなザマア……』という最後のセリフは 読み手に向けられた赤い彩がべとり塗りつけられた刃先におもえた。 つーことで、だおっち、深読みだっち! 結果、ぎとぎとにポリフォニックな物語に 仕立て上げられているのだが。ワタクシはもっとさわやかな 物語でカンドーしたい。と身悶えするのだった……お。 ★評価/好感7点 ランダカブラさん/或変態の一日 作者のヘソはまちがいなく歪曲しているとおもう。 なぜ、この筆力がありながら、 『グモッチュイーーンボゴゴゴゴゴ』なのか。 そして、なぜ、意図的に視点をめちゃくちゃにするのか。 さらに、或変態の一生ではなく、なぜに或変態の一日なのか。 疑問を掘り出したらきりがない。この掌編の根底にあるのは、 誰もが(男なら)一度は持つ、カルマなのである。 結局、断末魔を叫ぶなかで父や母を理解しようとしても、 因果応報は回避できない。 それみたことかなのである。ひととして生をうけ、 ひととして、欲望に流されまいとする常識人への アンチテーゼなのである。 そのことを冒頭『あなたは今、何をしているだろうか。……』 と擦り寄り、みごとにカルマへ落しこんでゆく。 そのあざとさ。まったく、作者のヘソを観て見たいものである。 ★評価/普通6点 石助さん/金髪天使と短髪髭野郎 冒頭、これはデビットリンチかとおもった。 そこへ、チェーホフや梶井基次郎が殴りかかってきた。 そして、ワタクシは大きなカンチガイをした。 『僕』という存在は『ミラ』を移す鏡。なのだろうと…… ところが、どっこい。 『僕は呆然とした。去ってゆくミラの背中を見る目が 涙で滲んでゆく。何が間違っていたのだろうか。桜の舞う中、 僕は春に闇があるとすれば、こういうものだろうと震えた。 それは裏切りの味をしているに違いない。』 なんと、真っ当な展開であったのだ。 しかぁしぃ、再読すれば、『僕』と『ミラ』は中学生なのである。 その設定をスケールに読み進めればすべての会話は許せるのであった。 でもなぁ、惜しいなぁ。ワタクシのなかでつくりあげた世界であれば、 『僕は呆然とした。去ってゆくミラの背中を見る目が 涙で曇ってゆく。何が間違っていたのだろうか。 桜の舞う中、僕はこの中学の大きな窓のある部屋に かかげられてから、何百年ものあいだに張りついた埃や、 なにかの夥しい毛を払い、そして、曇った瞳を拭いたかった。 そう切に願った。 そうすれば金髪碧眼の少女のおもいをより美しく映して あげられたのに。僕は春に闇があるとすれば、 こういうものだろうと震えた。 それは裏切りの味をしているに違いない。』 作者さんにはとても失礼ですが、 こんなラストをおもい描きながら読み進めていたのであります。 ★評価/普通5点 ああ、このバトルも三作品ほんとに僅差でした。 ★第4試合は『天上天下唯我独尊だおさん/ポリフォニック ミネストローネ』が勝者となりました。おめでとうございます。 |
2014/03/09 (日) 00:35 公開 |
作者メッセージ
申しわけないです。軽いパニックが…… |
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