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踊るあの子はコン 第二話
オオバ: 気楽に書いていこうと思います。
「その顔いいね」
 と、僕にウィンクした。
「はぁ、どうも……」
 僕は頭をかいた。
 その顔がいいねってどういうことなのだろう。人の病み顔がいいのか 理解に苦しむ。けど彼女の笑顔は、自然と僕の心を暖かくする。豪雨の中の傘のように包み込んでくれる、気がした。もし彼女が元気に咲く黄色い花ならば、その養分を享受する寄生虫になりたいと、一瞬で思わせる、不思議なちからがあるように思えた。
「あなたはどうしてここにいるの?」
「家出したんだ」
 僕はそう言うと、彼女はクフフと笑った。人懐っこい、ねばりけのある笑い声。ああ、彼女に心を開きたい、と僕は思った。長い間孤独だったから、急にそのように思えたのかもしれない。心の深いところに光を射すことができる人なんてしばらく現れなかったものだから。
「わたしの名前は朝津舞姫。あなたの名前は?」
「御藤霞味」
「そう、御藤さん」
 僕の名前を呼んでニコッと笑った。まるで幸せそうな笑顔。いいな、と僕は思ったんだ。
 彼女は虚空を眺めると、
「悲しみがあるから、温度が冷たいから、暖かさがわかるのよ。つまり人生には相反するその二つがあって幸福は得られるの。年中暖かい人はそれを当然だと思うわ。神様が無条件に人に施しをお与えするのも、全てを得ている存在は欠けている存在、つまり人間たちなしでは満足を得られないのよ」
 舞姫は言い終わると軽い吐息をつく。そして悩ましげに僕を見た。まるで僕が自ら立つのを待っているかのように。僕は戸惑った。急にはそんな勇気が湧いてこなかった。
 突然黄色い声があがる。僕達のまわりを子供達が走り回る。喧騒のなか、僕と舞姫の間に時間が流れた。
「つまり極で言うと、プラスの君にマイナスの僕がくっつくと両者に幸福が訪れる、そういうわけかい?」
「そうそう。それに何か知らないけれど、あなたが気になるの。その浅黒い脱力した顔に真っ黒なビー玉を力なくはめて、今にもこぼれ落ちそうなその顔。それに加え周りの生命力を貪欲に奪おうというオーラ。でもどこに根をはればいいのか悩んでいる木のようなそんな悩ましげな負のエネルギー体」
 ああ、彼女は僕を助けたがっているんだ。満足を得るために。また黄色い声が今度は廊下の向こうから聞こえた。それは今の僕には喜びの歌に聞こえるのだ。
「実際僕は泊まるところに困っているんだ」
「わたしの家がね、母が民宿をやっているのよ」
 ――民宿? 僕は顔を伏せた。これはもしかして民宿のキャッチなのだろうか。今までのことが急に色褪せた。僕が立ち上がろうかと思った時。彼女がウフフと奇妙な笑い声をあげ、なにか見透かされているような、そんな気持ちになって、僕を制止した。
「お金はいいの。わたしの傍にいてくれたら」
 そう言うと、彼女はニコッと笑った。まるで慈悲ぶかい聖母のように。彼女の背後の自動ドアから射す自然光が後光のひかりのように彼女の輪郭をきらめかせた。彼女は真っ白い、きめ細かな手をこちらに伸ばした。僕はそれを掴む。その感触によって体中に電気がはしった。気持ちが舞う。そして立ち上がる。彼女は手を放したが、もっと触っていたかった。
 児童館を出ると、日差しがまぶしかった。ああ、新しい朝がきたのだ。彼女は僕を見て微笑んでいる。僕は幸せ者だった。
 さきほどの舞姫の言葉を思い出す。『つまり人生には相反するその二つがあって幸福は得られるの』僕のマイナスと彼女のプラス……。そこで眉がピクッと動いた。僕のマイナスというのは昔の彼女の亡霊と衣食住の問題。それらは時間の問題で二人で消えてしまうのだろ? よく考えてみろ。そうなれば……、僕は……、捨てられてしまう? 急に明るかった未来に霞みがかかった。彼女は手招きする。いつの間にかかかった霧の中で。そんなイメージが湧き出した。
 僕は歩き方が歯車の間に砂の入ったロボットのようにギクシャクして不自然になっていたと思う。そんな異変に彼女は気づかないようで、鼻歌交じりに手足を優雅に振って歩いている。明るい鼻歌だ。僕は突如ゴッホの『ひまわり』を思い出した。キャンバスに描かれた幾つものひまわりの花は瀕死の如き生命力を晒して萎びているが、背景色がそのひまわりの状態に不釣り合いな元気な真っ黄色をしていて、それはいやに明るい。その相反するふたつの要素が組み合わされているキャンバス。その光景こそ、彼女が手に入れたいものではないのか? 僕はしおれたひまわり。彼女は真っ黄色の背景色。その二つの要素が、異変を起こすまではきっとうまくいくのだろうが……。
「あれがお母さんの民宿」
 彼女が指をさした。それは三階建ての建物で、ツタが網の目状に壁をはっており、その隙間からレンガ造りが見える。古びた建物だ。彼女はくもりガラスの扉を横にスライドさせ、ガラスの破片をガラス瓶の中で振ったような、そんな音をたてて扉は開いた。

2014/04/10 (木) 19:20 公開
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感想・批評
ここまで読みました。
3:<.21PDP.h>
2014/04/11 (金) 21:02
ここまで保存しました。
2:ひやとい <6NoxGC./>
2014/04/11 (金) 02:19
キラキラネームで萎えたのをはじめ、いろいろ萎えた
第一話はまだ読めたのに
1:<yw/6W02Z>
2014/04/10 (木) 22:56
微妙 1点

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