観測 |
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名有: 三題噺(掌握) |
聖域にて、救世主は、半神となる覚悟を決めた。創造主を倒すためである。終わりに近づいていた彼の旅は、滅びを司る悪魔=創造主であることを突き止めるに至って、その目的を根底から覆された。 この矛盾に対して、創造主は極めて無力であり、自分自身が世界を滅ぼそうとしていることに気付いてすらいない。そのため言葉での解決は不可能である。また、救世主の力の多くは、創造主から授けられたものである。授かりものが取り上げられてしまえば、救世主に世界を救うことはできなくなってしまう。 英雄と共に旅をしてきた賢者は語る。 創造主の力を借りられないのなら、独力で創造主を越えるか、他の力を借りれば良い。 独力で創造主を越えることは不可能だ。 この世界で、創造主に対抗しえる力は、ひとつしかない。 * 田中薫は、ブラウザの閉じるボタンを押した。マウスのボタンが、カチリ、と機械的な音を立てて、ウェブ・ページを閉じる。 香はため息をついて、天井を見上げる。ワンルームマンションの天井は代わり映えがしない。退屈な時間を紛らわせるため、ネットサーフィンをしてみたが、見つかったのは、独り善がりなつまらない小説だった。 それから、たっぷり5分ほど悩んで、財布を手に取り、立ち上がる。駅前の大型レンタルショップはまだ店を開けている。三百円も支払えば、二時間程度楽しむことのできるDVDを借りることができるだろう。 それを見る方がずっと有意義だと自分に言い聞かせて、薫は家を出る。 閉じられたブラウザの向こうでは、半神となる覚悟を決めた救世主の時が止まっていた。 END |
2014/05/06 (火) 21:27 公開 |
作者メッセージ
淡々とした文体とメタ表現の習作です。 |
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