タイムストリップトリップ |
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ランダカブラ: 第一回文芸部ショートショートコンテスト応募作品 |
モニターの青白い光が男の顔を照らす。無精ひげ、その下の、歳の割には肌ツヤの悪くない肌。夢の中ではいつもニキビでびっしりになる。あるいは肌が腐敗していく。目は銃で打ち抜かれ、弾は脳を貫通する。しかし死ぬことはない。脳は多少損傷しても、他の部分で働きを補うことができる。だから所詮、俺の脳の大半など必要ないものなのだ。男はもっと脳を破壊してやりたいと思った。俺の脳を。もっと。酒を飲みまくってタバコを吸いまくってシンナーを吸ってとことん脳を破壊してやろう。でなければ生きられない。まともな脳で、こんな世界、生きられる訳がない。PCのモニターには、LEDの光源がピクセルを形成し、ピクセルは加法混色によって像を表象している。女の像だ。少し歳は行ってるが、顔は美しく、胸も十二分に豊満だ。だから、多くのサポーターから応援のメッセージがそのページには寄せられている。男の頭の中で、女はステージに立っている。サンバのリズムでステップを刻むたび、腹が揺れ胸が揺れ、ふわふわとした青い羽毛やスパンコールがついたビキニからピンク色の乳輪が覗く。照明と音響が落ち再び舞台に光が戻ると、女は半透明の羽衣を纏っている。桃色の照明が純白の肌を染め、青白い血管を浮き上がらせる。それは預言者みたいだった。神の降臨を司り、観衆との仲介役を果たす。その最後の衣を外したとき。神は、舞い降りるか。両足を広げ、太腿の間に。天岩戸があり、それをゴロッとどかすと、一筋の露が。流れ落ちるそれは。天から降り注ぐ滝であり、中空に霞の層を創り、その下に世界を作る。霞の粒子からできた街を、人を、無機質を、モニターの粒子を。このモニターの粒子は、今俺にSNSの画面を通じて女の舞台を見せているものの正体は何なのだろうか。グレムリン。彼らはグレムリンであっても良いと主張したのは、機能主義を掲げる学者たちだった。ブラックボックスなら、それをグレムリンと表現しようが神と言おうが自由だ。俺の脳だってグレムリンだ。グレムリンが裏で頑張って変身しているモニターを見て女の踊る姿を想像し、女は俺よりも一回り上だということを知っているから、女が初めてセックスする一四歳くらいの時に出会ったら俺はまだ二歳だからチンボも勃つことができず、その間女は同級生だとか大人に若さに満ち溢れた張りのある肌を貪られまくって、それを見ている俺は不安も興奮も嫉妬も覚えることなく指を咥えてよだれを垂らしながらンププと笑っているまだ頭にグレムリンを飼う前の罪のない糞ガキで。糞ガキが一四歳くらいになってやっとオナニー中級者になってきた頃に女は既に二六歳で若さのピークを越えているが、一四歳の中坊にとってはそれくらいの女の方が逆にエロくていいのかもしれない。まだセックスを知らないからと言って面倒くさい前戯はスキップして色々とリードしてもらうからマグロで楽でいい。しかし知識や技術は現在のレベルを保有していて女が油断したところ、知り尽くした女の性感帯を攻め、俺が開発し何度も逝かせてやるのだ。そんなくだらない妄想をする俺の脳のグレムリン。全てのものに実態がない。モニターに映し出されるSNSのページも、神を呼ぶ女も、女の過去とセックスする俺も、それらの虚像を生み出す俺の脳も、全てに関連性など存在しない。SNSをクリックしてふと中学時代の友人の名前が出てきて、そこから芋づる式に同級生の現在が出てくるが、それらはグレムリンが作る実態のないモニターによってそう見えるだけだから、現実の世界とは全く関係のないパラレルワールドである。一番嫌ってていじめてやった男が学年で一番可愛くてスタイルの良くて俺を振った女と結婚し可愛い子どもが映っていたとしても、それは全く関係のない世界の話。関係ない世界ではあるが、画面上をうねうねと動くピクセルの蛆虫が画面から這い出してきて、うざったいから最初は指でプチプチと潰していたが、キリがない。頭を掻いたのが間違いだった。頭に痒みを感じたからといって、掻いたのが間違いだった。指先に付着した蛆虫の死骸が、結局は死んでいなかったのだが、毛根をたどって脳に潜り込んだみたいだ。今ではもう、脳の皺の間にびっしりと、中で繁殖を繰り返した蛆虫が這いずり回っている。そいつらを殺してやろうと思い、こめかみに銃口をあて、何度もトリガーを引いた。その度に俺の脳が、脳に巣食った蛆虫が、少しずつ弾け飛んだ。俺は俺の脳をもっともっと殺してやりたい。 |
2014/09/15 (月) 18:04 公開 |
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