北国 |
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白鷺郷 |
その日は一日寒い日だった。 夜。擦り硝子の窓から、大粒の雪が深々と降っているのが朧に見える。そうか、とうとう雪が降ったか。 この様子では積もりそうだ。明日は朝から車の雪おろしだと思うと、自然気持ちが沈んでくる。北国に生きる者にとって、雪は憂鬱なもの以外の何物でもない。 大きくため息を吐くと、ゆるゆると立ち上がって棚から缶詰を取り出した。降ったもんは仕方がない。とりあえず飯にしよう。 電気ポットのスイッチを入れ、焼酎の瓶を手にする。冬は熱いお湯割りが美味い。せめて雪見酒でもして、今晩は楽しもうか。 杯を重ねると、身体は暖まり、徐々に気分も高揚してきた。いい気分だ。 買い置きしてあった焼き鳥の缶詰と、ウインナーソーセージの缶詰を食い終えると、酔いにまかせてごろりと床に寝転がった。天井に見える蛍光灯がやけに薄暗く思える。夜の闇は夏でも冬でも変わらないってのに。 瞼が重くなってくると、明かりが鬱陶しくなってきたので消した。開けっ放しにしたカーテンから、道を走る車のライトの光が断続的に飛び込んでくる。 それはまるで、雪の精が部屋の中へ入り込んできたかのようだ。ひらり、ひらりと閃きながら、何を思って舞い踊るのか。 ふと、光の中から人影が生まれた。白装束を着た女性。極上の美人だ。あれだ、雪女だ。と、俺はこの不思議な現象を、何故かすんなり受け入れた。 お話では、雪女は老人の木こりを殺して、美男子の少年は生かした。ならば、俺のようなおっさんは殺される方だな。 雪女は俺に近づくと、ふうと冷たい息を吹きかけてきた。そこではっと目が覚める。 いけないいけない。こんな所で寝てしまったら、本当に死にかねんぞ。 食い終えた缶詰の空き缶とグラスはそのままに、俺は寝室へ行って布団に潜りこんだ。 北国の冬は厳しい。 冷たい布団の中で丸まりながら、夢に出てきた雪女の美しい顔を思い返した。やがて体温を吸った布団が心地よく温まってきた頃、俺は眠りに落ちた。 |
2014/11/15 (土) 23:24 公開 |
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