月子ロス症候群 |
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ミラ: 月子祭り参加作品 |
月子が創作文芸板から姿を消してしばらくの間、俺は気が抜けたようになっていた。仕事も手につかず、食事もろくに喉を通らなかった。俺にとって月子がどんなに大きな存在だったのか失って初めて分ったのだ。しかし全てはもう遅い。月子は二度と創文板に戻ってはこないだろう。そう思うと俺はどうしようもなく辛く悲しかった。 ついにある日、憔悴しきってやつれ果てた俺を見るに見かねた友人によって、とある心療内科へと半ば強引に連れて行かれた。 「愛情の対象を突然失ったことで感情の行き場が無くなってしまい、それが精神と身体の両方に不調となって現れたのです」 そう医師は診断を下した。 「ペットロス症候群という言葉を聞いたことはありませんか。あれとほぼ同様の症状です。あなたの場合は差し詰め『月子ロス症候群』とでも言ったところでしょうな」 「はあ」俺は力なく答えた。「で、どうすればいいんでしょう」 「ペットロスの場合は新しいペットを飼えば簡単に治るんですが、あなたの場合はそういう訳にはいかないでしょうな」 医師は腕組みをして暫し考えていたが、やがてこう言った。 「ちょっと荒療治ですが、あなたの記憶に残る月子さんを、あなた自身の手で改めて葬り去るしか方法はないでしょう。そうすることで思いを断ち切ることが出来るはずです」 おれは医師の催眠誘導に従い、頭の中に月子のイメージを思い浮かべた。もとより月子の外見など俺は知らなかったが、それでも暫くすると若く美しい女性の姿が俺の脳裏にくっきりと浮かび上がった。 「つ、月子! 君は月子だな」俺は叫んだ。 「そういうあなたは○○さん? 会いたかったわ!」 月子があるコテの名前を呼んだ。俺の嫌いなコテだった。 「違ーう!」 俺はいつの間にか手にしていた槍を月子の体に突き刺した。 ふと気がつくと俺は診察室に戻っていた。 「気分はいかがですか」 医師の問いかけに俺はにっこり笑って答えた。 「とてもすがすがしい気分です」 というわけで俺の心の病は、月子を突き殺すことによって完治したのである。『月子ロス症候群』だけにな! |
2015/06/05 (金) 00:37 公開 2015/06/15 (月) 01:30 編集 |
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