I AM GORILLA |
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山田 |
幼稚園のころ、同じ組のやんちゃな子にゴリラというあだ名をつけられた。それ以来ずっとゴリラとよばれている。誰も本名でよぶものはいない。みんなゴリラと呼ぶ。父も母も姉も弟さえも、僕のことをゴリラとよぶ。僕ももう訂正する気もなくそれをうけいれている。でも、本当は一人でもいいから誰かに名前をよんでほしいと思っている。僕はゴリラじゃない。僕の名は……。 「おい、見ろよお前ら! こいつの顔、ゴリラにそっくりだぜっ!」 コンビニを出ると、茶髪にピアスをした見るからにチャラそうな男が近づいてきて僕の頭を叩きながら叫ぶ。 「ほんとだ、スゲエ! 動物園から脱走してきたのかな」 「好物はやっぱりバナナなんですか?」 茶髪の連れの二人が笑いながら近づいてくる。 「やだ、チョーうける」と股の緩そうな金髪女子高生がスマホで写真をとってくる。 こんなのはもうなれっこだ。とはいえ、許そうとも思わない。 「あっ?なんだこのゴリラ、にらんできやがる。人間様にたてつこうってか?」茶髪が眉間にしわをよせてすごんでくる。僕はその手を握り、 「ゴリラの握力が何キロあるかしっているか?」 「はあ?」 僕は思いっきり力を入れてその手を握りつぶす。茶髪の手がバキバキと音をたてて砕けるのがわかる。 「400キロだ」 「う、うわあああああああああっっっ!」 茶髪の叫び声が駐車場に響き渡る。 「て、てめえっ!」 連れの二人が駆け寄ってくる。一人はナイフ、もう一人はメリケンサックを持っている。だが、ゴリラの敵ではない。僕は両手を広げて拳をにぎり、高速で回転をはじめる。ストUのザンギエフのようなダブルラリアットで二人は五メートルほど吹き飛んで壁にめり込み、そのまま気絶する。 「ちょ…ちょーウケる…」金髪女子がふるえながらスマホでパシャパシャとるが僕はそれを真っ二つに折る。金髪女子はそのままペタンと座り込みパンツ丸見えのまま茫然と僕を見るが、無視してそのまま立ち去った。 ゴリラと馬鹿にされ、からまれることが多くなった僕は、本物のゴリラ並の強さを身につけるしかなかった。暴力は嫌いだったが、力に対抗するには力しかなかったのだ。血の吐くような訓練を自分に課した僕は中学生の頃にはすでにその握力は400キロを超えていた。まさにゴリラ並の力を手に入れていたのだ。 中学に入ってすぐ番長だという男に目をつけられた。誰も使っていない空き教室に呼び出され、自分の手下になれとおどされた。彼の周りには十数人の男が手に武器を構えて立っていた。もちろん断った。だがそれですむわけがない。番長たちは全員で僕にかかってきた。だが、中学生がいくらたばになったところでゴリラにかなうはずがない。ものの3分で全員倒してしまった。僕の前けりで天井に突き刺さった番長は震える声で「に、人間じゃねえ……」といった。そうだ、僕は人間じゃない。お前らが僕をそうしたのだ。 「そのとおりだ」 そう言って僕はその教室を立ち去った。 「僕はゴリラだ」 |
2015/10/04 (日) 21:55 公開 |
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