校舎裏めっ! |
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西野狼 |
校舎裏、それは様々なイベントの場所、不良に呼び出されてもリンチ、下駄箱に手紙をいれられて呼び出されての愛の告白、甘酸っぱい青春の一ページはここで作られる。 「んな事を思っていた時代が俺にもありましたぁ!」 そんな特別な場所にて、ここに来た人間に見つからないようにとやや大きめの茂みの裏に身を潜めている生徒が一人、購買で買ってきたバナナ牛乳をストローですすり、ため息を吐いた。 多少大きな声を出しても誰も気付かない、それはそうだ、彼以外誰もいないのだから。 人の恋路やら秘密の情事、はたまた喧嘩と言う感情のぶつかり合いを期待して、毎日飽きずにこの茂みに潜んでいる少年の名は甘風 剛(あまかぜ たけし)、この高校の生徒だ。 人の秘め事を眺めるのが好きと言う何とも悪趣味な性格だが、特に素行が悪いわけではなく、その悪趣味な性格をもちろん普段は隠して、普通の帰宅部所属の生徒としてこの学校では通っている。 彼は授業が終わっては、帰宅部として活動をするフリをして、校舎裏にこっそりきて、この茂みに潜むという行動を約一か月前から行っているが、その成果はゼロだった。 ならば諦めて場所を変えればいいではないかとも思えるが、剛の中で校舎裏での秘密の出来事を見たいという思いをどうしても捨てきれず、今日も今日とて茂みの陰で張り込みを続けているワケだ。 ここで張り込みを始めた当初は生い茂っていた雑草はすっかりなくなって、ズボンの尻が汚れないようにたたんだままのビニールシートを敷いている。 盗撮用にスマートフォンには無音カメラアプリをインストール済みで、ワイシャツの胸ポケットに入れてすぐに取り出して使えるようにしていて、無駄に通知が来ないようにするためにゲームアプリ類は一切入っていない。 さぁ、いつでも来い、という思いとは裏腹に、この校舎裏では何も起こる事は無く、剛がやる事と言えば、風の音を聞くか、授業で出された課題をするか、足元から身体に登って来たありを払うぐらいだ。 思っていたものと現実とはやはり違う、と剛は実感した。 バナナ牛乳はもうなくなり、吸っても紙パックからは汚い音しかならない。 日が傾いて、校舎を染め始めたが、その日も誰も来なかった。 空を見上げるとけたたましい鳴き声を上げながら群れた鳥が飛んで行って、剛の近くに糞を落とす。 「今日でやめにするか」 なんとなく剛はそう口にし、立ち上がって片付けをした。 今までやってきたことを無駄にするのに少し悔しい思いを抱えながらも、夢は夢だったと踏ん切りをつけ、諦めて、別の場所を探すことに決めたのだ。 片付けはすぐ終わった、なんせ荷物は少ないから。 後は帰るだけだが、その前に、茂みから出て剛は、校舎裏の何もない白い壁に近づいてみた。 陰に染められているところを触るとひんやりと冷たい、手のひらで軽く叩くとペチペチと音が出て、コンクリートの硬い感触がして、少し手に痛みが返ってくる。 「何もなく、ただあるのはコンクリートの壁と爽やかな風ってか? はは、面白みもないな、ははは、はははは」 少し笑いながら何度かコンクリートの壁を叩く、音が響くが剛以外誰も聞いてはいない、誰もいないのだから。 「ははは……さて、帰ろう」 校舎裏の打楽器コンサートは約二分程度で終演し、剛は笑いを引っ込めて、冷めた表情で壁から離れ、自分の行動を振り返り、何をやっているんだ、と自分自身に呆れてため息を吐いた。 そして、今度こそ校舎裏から去って、帰路に着いた、次はどこを張るかと考えながら。 ・ 次の日、学校に着き、教室に着くと剛のクラスの特に親しくない男子グループが騒いでいた、でかい声で騒いでいたので剛にも何をそんなに騒いでいるのか容易にわかった。 いわく、グループ内の一人の男子が別のクラスの女子に校舎裏に呼び出された、そういう内容だ。 自分が諦めた次の日にそんな事が起こるとは、なんとなく運命を感じた。 剛には望みを叶えさせないという意地の悪い運命を。 だから剛は覗きに行かなかった。 別のクラスの女子とその男子の秘密の告白を壊さないために、というよりはクズのような運命に唾を吐くために。 放課後、新しい張り込み場所を探しながら、購買で買ったバナナ牛乳の紙パックにストローを刺した。 「いつかこんな運命に打ち勝って見せる!……って中二病かよ、ちっ」 部活に向かう仲良さげな生徒の声を聞きながら、ひとりごちる。 なんだか悔しい気持ちになって舌打ちを一つ。 すれ違った女子生徒がビビッて振り返るが気にしない。 そして、バナナ牛乳を啜ってため息を吐いた。 いつも通りにバナナ牛乳は甘ったるく、今の所それだけが剛の癒しであった。 |
2016/07/18 (月) 14:09 公開 2016/07/18 (月) 20:00 編集 |
作者メッセージ
人生はままならない、当たり前ですけど。 |
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