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オナ日記
質問男: 少女に欲情する中年男の偏愛
   1

 今年、四十歳になった。
 この歳になって思うのは、肉体の衰えを顕著に感じるという事。四十代、壮年、いわゆる働き盛り。そこへ足を踏み入れたばかりでそういうのは早いかもしれない。
 しかし、俺は衰えた。それは間違いない。
 ことに、性欲の減退は強く感じる。そして、その事実は男として悲しい。単純に男としてのプライドが折れたというのもあれば、生殖能力の衰退による喪失感もある。
 それはまるで、俺という個体がこの世で役割を終えてしまったかのような、そういう感覚……
 いや、実際俺はもう終わってしまっているのかもしれない。
 五年前、妻と別れた時、終わってしまったのかもしれない。
 俺の名は紀本卓朗という。
 しがない商社勤めのサラリーマンだ。

 東京、秋葉原。
 若い頃は、よくここへ来た。アニメやゲームなどのサブカルにどっぷり浸かっていた時代、この街は本当に輝いて見えたものだ。
 結婚してからは、そういったオタク趣味は卒業した。ここへは仕事関係でしか来る事はなくなった。
 店舗の前にある販促の萌え絵、メイド服姿の若い女性。リピドーを失った今、もうそれらに心動かされる事は無い。
 いわゆる「萌え」というものが、性欲と結びついている事が、今になるとよく分かる。
 まあ、今さらオタクって歳でもないがな……
 こんな事を考えながら、街をぶらついていた。
 もう得意先への挨拶回りは済んだ。少しくらい休憩を取ったってバチは当たるまい。
 ふと、目に留まった書店へ入った。本屋へ入るのも数年ぶりか。
 漫画が好きで、よく読んでいた。だが、漫画はすぐ読んでしまい、次から次へと購入していると嵩張ってしまう。
 家庭を持つと何かと物が増えるので、漫画などにスペースを取る訳にはいかない。
 若い頃は、本棚に入りきらないほど本を持っていた。読み返す事もあったが、どちらかといえば、コレクター的な意味合いが大きかった。
 無理していたんだな。そう思う。
 自分を押し殺して、人生を共にするパートナーに自分を曝け出さず、ゆえに理解されず……
 何故、俺は我慢していたんだろうか?
 一生、自分を偽って生きるつもりだったのだろうか?
 ……いや、止めておこう。この思考の迷宮には出口が無い。
 意識を戻す。
 書店内には結構な客がいた。若い男女の姿も多く見える。そうか、もう学校の授業は終わっている時間か。
 さて、漫画でも見てくるか。単行本を物色するなど久しぶりだな。
 漫画に囲まれた通路の一つに入って、ふと立ち止まった。
 その先には、一人の少女がいた。
 シンプルなシャツにチェックのミニスカート。セミロングの黒髪は肩に少しかかるくらいで、眼鏡をかけた顔は、化粧っ気は無くあどけない。
 高校生くらいか。それも、まだ肉付きが足りない華奢な身体つきから見て、高一か高二ってところだろう。
 少女は俺の視線にまったく気づかず、立ち読みOKの漫画に目を落としている。時折交差させるニーソを穿いた脚が可愛らしい。
 少し、胸が疼いた。
 そういえば、俺は若い頃、彼女のような女性が好みだった。地味でおとなしそうで
本が好きで、しかし知的な文学少女ではなく、漫画を好むような子。
 ほんの僅か、切なく胸が締め付けられる。
 俺が高校生の頃、好意を持っていた女性もこんなタイプだった。
 きっかけがあれば話しかけたりし、事あるごとにちょっかいを出していた。
 そして、俺はその子を毎日妄想で汚し、自慰をした。
 今考えると、セックスをしたいという事しか頭になかったと思うが、十代の男などこんなものだ。
 結局、大人しい者同士、その子とは友達以上になれなかったが、それで良かったと思う。
 
 ふと、気づくと立ち読みしていた少女はこちらに向かってきた。結局、立ち読みしただけで購入しないのだろうか。
 少女が脇を通り過ぎた時、柔らかく、それでいて乾いたような匂いがした。女性の、少女の匂い。
 そういえば、高校時代、好きだった彼女もこんないい匂いがしたな。
 ぴくり、と俺の股間が反応した。
 それは、数年ぶりの衝動であった。

 仕事を終え、帰宅した俺は缶ビールを呷りながらノートパソコンをいじっていた。
 ネットを徘徊しながら酒を飲むのが、離婚してからの長い夜の暇つぶしになっていたのだが、ふと、思いついてブログサービスに登録した。
 そして、今日であった少女の事を、詳細に書き込んだ。
 ともすれば娘のような歳の少女に欲情した。その事実に、しばらく心の中がざわついていた。仕事中、平静を装っていたが、内心狼狽していた。
 だが、これでいい。
 この気持ちを偽りたくない。
 もう、後悔したくない。
 少女を思い出しながら記事を書いていると、しらず俺は勃起していた。
 記事を書き終え、公開すると、俺は布団に潜り込み、あの少女を思い出しながら自慰をした。
 パソコンは開かれたままで、画面には俺のブログが表示されている。
 ブログタイトルは、『オナ日記』とした。



   2

 暑い日だった。
 商談を終えた俺は、陽炎の立つアスファルトにげんなりしながら、脇の歩道を歩いていた。アーケードになっているこの街には、昭和の雰囲気を多分に残す店舗やビルがちらほら見かけられる。
 この景色、好きだな。
 金物屋をウインドウ越しに眺めながら通り過ぎると、次はいかにも年季の入った靴屋がある。そこを抜けると、小汚く外壁が煤けた飯屋があった。
 ガキの頃、こういう通りをワクワクしながら歩いていたものだ。
 ふと、立ち止まる。
 白いセーラー服の女学生を俺は見つめていた。
 友人と並んで歩く女学生たちは背が低く、濃紺のスカートは膝下。女子中学生か。
 古いアーケード街を歩く少女たちにノスタルジックを感じて、一瞬意識が飛んだ。
 よく見ると、他にも男女の学生姿がちらほら見られる。
 ああそうだ。アーケードを抜けて、隣の道を数百メートルほど行くと中学校があったな。
 アーケードを抜けて、反対側にある駅へ向かうと、そこには大勢の学生の姿が見えた。ふと、俺は腕時計に目をやる。丁度、下校時刻のようだ。
 彼らに混ざり歩くのを嫌い、俺は意識してゆっくりと歩いた。
 しばらくすると、学生たちはほとんどいなくなり、俺の前にはお喋りしながら歩く女子学生が数名いるだけだった。
 そこまでゆっくり歩いたつもりもなかったが……
 若者と中年の差を感じ、俺は思わず苦笑した。
 しかし……俺は前を歩く女子学生に目を向ける。
 女子学生の夏服ってのは、どうしてこうもそそるのだろうか。
 俺はおさげの、一際小さな女子学生に目をやった。何がそんなに楽しいのか、ケラケラ笑い声を上げ、オーバーなリアクションをして、横を向いたり前を向いたり、友人の背を叩いたり、もたれ掛かったり。明るく快活な少女のようだ。
 少女がリアクションを取るたび、細く白い腕がひらひらと動き、おさげ髪やプリーツスカートの裾がふわりと舞った。少女が身体の角度を変えるたび、白いセーラー服が夏の日差しを反射させて輝くかのようだ。
 そういえば、俺が中坊だった頃、教室の中、こうして女子生徒の背を見つめていたな。
 白いセーラー服から、ブラのラインが透けて見えるのを目に焼き付けていた。帰宅すると、それで自慰をした。
 今現在は、これだけ距離があると下着のラインまでは見えないし、見えたとしてもその程度で勃起する事はない。
 しかし、あの頃はたったそれだけで興奮したし、それに高揚した。
 持て余すほどの性欲を持ち始める年齢でもあったし、女性の身体というものに激しく興味を持つ頃でもあった。
 ほとんど全ての男が、等しく変態だった時期。
 だが、中坊の頃は女子と会話をするのが恥ずかしく、よほど気さくな子以外とは、滅多に話さなかったっけ。
 そして、そんな気のいい子を、俺は妄想の中で何度も汚した。
 あの頃は好き嫌いがはっきり分かれていて、本当に好きだったのは、クラスでもトップクラスの美少女だけだった。また、女子も大人びた美少女もいれば、まだまだ幼さを残した子もいた。
 まだまだ未成熟だった。
 しかし、俺は好きでもない女子で自慰をしたし、その事に何の疑問も持たなかった。
 性欲に翻弄されていた。
 まあ、“めばえ”の時期といえばそれまでだし、劣情に振り回されて誰かを傷つけた訳でもないし、別にいいのだが。
 ただ、愚かしく哀しい生き物だったなとは思う。
 しかし、だ。
 ならば、今の俺は何なのだろうか?
 一度は生物として衰えたのに、今こうして回春するに至った。
 だが、その欲求の先は、ともすれば自分の娘のような少女に向いている。
 そりゃあ、俺もいい歳、欲に任せて誰かを傷つけるような事はしない。そのくらいの自制心はある。こんなおっさんが歳がいも無い事はしないさ。
 子供は、割り切れない。
 美少年がいれば、美少年に恋をする。あえておっさんを選ぶ奴はいない。
 そうであるならば、俺の欲求は完遂する事は無い。俺の愛欲は満たされない。
 いい大人として、欲求を抑えるべきじゃないのか? 欲に振り回されるなど、愚かしい事ではないのか?
 だが、それこそそんな簡単に割り切れるものじゃない。
 そういう感情を、捨てられる人間がいる訳がない。
 今も、女子学生が小さな尻を揺らしながら歩く様を、舐めるようにじっと凝視していて、その目を離す事が出来ないのだ……

   *

 駅には学生達の姿が多く見えた。ごった返す構内では、学生達を見て過去を思い馳せるような余裕はない。確定する満員電車に、ただうんざりするだけだ。
 まあ、この時間帯は仕方がない。
 小さくため息を付く俺の視界内では、学生達が仲の良い者同士集まって、楽しそうにお喋りをしている。
 ここら辺、くたびれた中年と、溌剌とした若者の違いだろうかと、俺は苦笑した。
 ホームに電車が着くと、人は波になってなだれ込む。俺も何とか、満員の車両に身体を捩じり込んだ。
 ふう……
 一息付き、視線を上げると、俺のすぐ前に女子中学生が立っていた。小柄で、おさげ髪の愛らしい子。もしかしたら、駅に向かっている時前を歩いていた少女かもしれない。
 こちらに背を向けているので、顔は斜めから横顔が見える程度だが、なかなかの美少女のようだ。
 この位の年齢の女子は、美醜の高低差が大きい。女性らしさを身に着けてゆく過渡期だからか。この子は、恐らく同世代では出色だろう。
 俺の心をざわつかせる。
 だが、それはまずい。
 この心情を少しでも悟られる訳にはいかない。俺は努めて、この少女を意識の外へ出そうとした。
 その時、俺の左腕が少女に触れた。
 ギクリとした。だが、少女は特段気にしている様子はない。
 少女は友人との会話の最中、よく笑い、よくリアクションを取るのだが、それが少々オーバーで、狭い車内の事、俺とぶつかってしまうようだ。
 そして、少女にとってはそれが普通であり、気にするほどの事ではないのだろう。もしかすると、男性に対して、未だ何らかの意識を持ってはいないのかもしれない。
 まあ、過剰反応して、まるで痴漢のような変態のように思われても癪だが。

 そういえば、俺は過去、痴漢をした事がある。
 丁度、この少女と同じくらいの年齢の事だ。若かりし頃の過ちだった。
 通学に毎日電車を利用していたのだが、同じ時間帯、同じ車両で一緒になる高校生の女の子がいた。
 眉目秀麗という言葉の似あう、優しさと強さを併せ持ったような美人。何でもこなせそうな才女という印象を持たせる人だった。
 実際、凡人には持ち得ないオーラのようなものが漂っていた。
 俺はその女性に憧れていた。中坊の頃の淡い恋心という奴だ。
 毎日同じ車両に乗るものだから、隣り合わせになる事もあった。そんな時、俺の体温は上昇し、心臓がバクバクいったものだ。
 恋愛とは、どういうものか、どうすればいいかなど、まったく分からなかった頃。性の芽生えと言えばいいか、初めて経験する、恋心と欲情の入り混じった切ない感情。今でも鮮明に覚えている。
 ある日、彼女が俺の前に背中を向けて位置した時、手の平を裏返して彼女の方に向けた。つまり、痴漢するフリをした。
 いやらしい背徳感に俺の胸は早鐘を突き、体温は一気に上昇し、勃起した。
 童貞のガキだけが持てる幸福な時間。俺はそれで十分だった。
 無論、痴漢は犯罪であり、やってはいけない事だというのはガキでも知っている。だが、それ以上に俺は彼女に憧れていた。それは尊敬し、畏敬する気持ちに似ていた。彼女は高尚な存在であり、触れるなど恐れ多い。
 ただ、少しだけ、彼女によって目覚めた男の性を、向けてみたかっただけだ。
 そんな時、電車は駅に停車し、また多くの人が乗り込んでくる。すると、彼女は後退して間を詰めてきた。
 ほとんど俺と密着する事になってしまうのだが、俺の手の平は彼女の尻に向けてある。
 つまり、俺の手の平に、彼女の尻が触れた。
 その柔らかな感触に、俺は驚愕し、これ以上ないくらいに興奮していた。上を向いていた股間のモノが、さらに膨張し、自分でも信じられないくらい硬化した。
 それは、手の平で尻を触っているだけではなく、男性器で彼女の尻を圧迫しているという事だった。
 もう、どうしようもない。
 俺は身じろぎもせず、ただ彼女の感触を心に刻み込んだ。もう、いい。この状況で我慢など出来ない。
 尻に触れている手の平から、彼女の体温が不自然に上昇している事に気づく。彼女も興奮しているのだと思い至った時、俺の股間のモノはさらに肥大しようとその身を震わせた。
 ぴくり、と彼女の身体が一つ震えた。
 やがて、各駅に着くたび乗客は減り、彼女は俺と距離をとった。
 何事も無かったかのように、彼女は俺に背を向けている。
 それで、この事は終わった。
 これが、俺の人生で一度だけやってしまった痴漢の顛末である。

 フウ……
 一つ、俺は小さく息を付いた。そして、目の前の女子中学生を見た。
 あの、小振りな尻に触れたい。しかし、そうしたとして、あの時のような感動はあるだろうか?
 ある訳がない。あの感情を抱くには、俺は歳を取り過ぎた。
 俺は腕を上げて、手の平を見つめた。そして、ぎゅっと握りしめた。
 目的の駅に着くまでの間、このオーバーリアクションの少女と、また何度か身体が触れた。

 帰宅した後、俺はブログを付けながら缶ビールを呷る。
 俺はそんなに毎日飲む習慣は無いが、今日は酔いたかった。
 あの溌剌とした女子中学生。そして、過去俺に愛欲を教えてくれた女子高生。
 彼女らに、乾杯。
 俺は自慰をした後、そのまま床に就いた。
 夢の中、俺はあの女子中学生の小ぶりな尻を鷲掴みにしていた。
 それはあの女子高生の尻のように柔らかく、そして、あの頃のような感動と興奮を覚えていた。



   3

 ブログを付け始めてから、俺は変わった。
 街行く少女を愛で、妄想し、そして自慰を繰り返した。
 愛くるしくて仕方がなかった。
 女子高生の短いスカートから覗く膝小僧、女子中学生のセーラー服姿に華奢な身体。私服姿の彼女らもいい。この時期なら、涼やかなワンピース姿もいいし、Tシャツに短パンというのも健康的で良い。
 そして、そんな可憐な少女らに欲情する中年の俺は、変態なのだろう。
 男性にも純愛はある。そうでなければ恋愛など出来ない。セックスだって、妻が居た時は、純粋に子供が欲しかった。愛の結晶が得たかった。欲望を満たすのではなく、そういう気持ちが強かった。
 だが、それも叶わなかった。
 子供がいれば、夫婦関係もまた違ったものになったのではと考える事がある。お互い父性、母性を持ち、家族の絆も深まったのではと思う。
 結局、男も女も単体では中途半端なのだろう。
 たった2ピースしかないパズルだが、それを完成させるのは難しい。俺には、難しかった。
 俺は今、再び燃え上がるような欲情を持った。
 神は何故、半端者の俺を回春させたのかは分からない。
 一つだけ言える事は、俺の性欲が少女らに向いている限り、このパズルを完成させる気は無い。
 俺は紳士だ。
 変態だが、紳士でありたい。

 俺のブログ“オナ日記”は、それほどアクセスは無い。下ネタとはいえテキストのみだからだろうか、それとも俺の文才の無さか。
 まあ、このブログは俺の心情の発露を文章化して記録するのが目的で、特段人気はなくとも気にしていないのだが。
 それでも、日々記事を書き込んでいると、少しずつアクセス数は増加し、ポツポツとコメントも入るようになった。
 意外と中傷のコメントはなかった。『分かる』、『萌えた』、『俺はこういうシチュが好きだ』というような、同好の士からのコメントが多かった。
 ただ、一人だけ不思議なコメントをする者がいた。
 ハンドルは“トモ”といった。
 トモは『オナニーは気持ちいいですか?』、『何故したいのですか?』というような、行為に対する本質的な質問をしてきた。
 そんな事を言われても、本能としか答えようがないのだが、トモはさらに、『何でしたくなるんでしょうね?』と問いかけてきた。
 そりゃあ、性欲は子孫繁栄のためだろう。だが、俺はブログで離婚して独り者だという事は公表しているし、今の俺は少女に発情している変態だ。そんな俺が、『子孫繁栄』などと口にできない。
 ロリコンやフェチという答え方もあるかもしれないが、俺はそういう型に嵌めたようなものとはまた違うと考えていた。
『人間が命を繋ぐために他の生物の命を奪い、喰らうような“業”に近いかもしれない』
 そう答えた。
 トモは、コメント欄ではなく、プロフィールに書き込んであったメールアドレスの方へ返信してきた。
『会いませんか』
 トモのメールには、たった一言そう書いてあった。

 俺は迷った。
 トモは変わった質問をしてくるが、真面目な性格だという事は伝わってくる。人間的には問題ない。
 問題は、トモは恐らく女性――それもかなり若い。
 文章で性別は大体分かる。年齢にしても、文章に天然とも取れる無邪気さがあり、下手すれば十代じゃないかと考えている。
 トモとオフ会するのはいい。
 問題は、俺だ。トモのメールを読んで、俺の中に黒い感情が沸き上がって来ている。
 ぶっちゃければ、ヤりたい。少女とセックスしたい。
 妄想で満足?
 俺は紳士?
 馬鹿な! セックス抜きで完遂する愛欲などあるものか。俺は女を知らない童貞のガキじゃないんだ。
 俺は震える指でキーボードを叩いた。
『そうですね。俺も会ってみたいです。
 いつ頃予定がよろしいですか?』

   *

 トモとは、土曜日の朝九時に、○○町の中心街で待ち合わせする事になった。
 場所は俺が、待ち合わせ時間はトモが決めた。
 トモに時間を決めさせたのは、家族の目があり、いつでも自由に外出できる訳じゃないだろうと推測したからだ。
「だが、朝の九時っていうのも、やけに早いな」
 ビル前の噴水付近に突っ立っている俺は、ふと周囲を見回した。
 繁華街の中心部であるここで待ち合わせする者は多い。しかし、さすがにこの時間は人の姿もまばらだった。
 その時、不意に携帯が鳴った。
 トモからだった。もうビル前まで来ているという。
 ぐるりと見渡すと、携帯を耳に当てている少女がいた。
 俺が何か言う前に、トモからの通話が切れた。代わりに、視線の先の少女が小走りで俺に近づいてきた。
「タクさん(俺のハンドル)ですね?」
 少女はそう言って、俺を正面から見据えた。
「ああ。君はトモちゃんだね?」
「はい」
 トモはプリント柄の入ったTシャツに短パン、白いハイソックス、スニーカーといった、地味な服装だった。ボブカットの髪は黒髪だが、色素が薄いのか、光の加減で茶色く見える事もある。あどけない顔はスッピンで、一切化粧っ気が無い。それもそのはず。年齢を聞くと、トモは十五歳、中学三年生だと答えた。
 痩せ型なのか、細い身体をしている。しかし、バストは女性らしく育ってきているし、尻も丸く張っている。脚はスラリと細く、艶めかしい。
「行こうか」
 そう促して、俺はトモと歩き出した。
 トモは整った顔立ちで、なかなかの美少女だが、若干陰気な所があった。基本受け答えはハキハキとしているし、よく笑う可愛らしい子なのだが、会話が途切れた時、ふと暗い表情を見せる。切れ長の細い目で俯いているのを見ると、どこか厭世観すら漂っていた。
 変わった子だな。
 これが、俺がトモに持った第一印象だった。

 繁華街を外れ、裏路地の細い道に入る。
 俺は、この近くにセカンドハウスを持っていた。独り者になると、金は貯まっていく一方なので、投資用にワンルームマンションを購入した。
 だが、入居者は付かず、ただ管理費を払うのも馬鹿らしくなったので、自分で使用する事にした。主に街で一杯やった後、泊まっていくのに使っている。
 そこへ、トモを連れ込んだ。
 トモは部屋へ入ると、不思議そうな顔で中を見渡した。それはそうだろう。テレビや冷蔵庫など、一通り揃っているものの、まったく生活感の無い部屋なのだから。
「ここは俺の別荘なんだよ」
「そうなんですか! タクさんはお金持ちなんですね」
 トモは目を丸くした。
「そんな事もないけれどね。
 お茶かオレンジジュースか、アイスコーヒーがあるが」
「じゃあ、お茶を下さい」
 俺はお茶の入ったグラスをテーブルに置くと、トモと向かい合って座った。
 トモはくすくすと笑って、
「色んな飲み物が揃っているんですね」
「ああ、トモちゃんと会うって決まってから揃えたんだ。
 この近くにはデパートがあって、暮らすにも便利な環境なんだぜ」
「へえー」
「一応言っておくが、こうして部屋に連れ込んだけど、変な気持ちは持っていないから安心してくれ。外だと、他人の目が気になってね」
「はい、安心します」
 言って、トモは笑顔を見せた。
 よく笑う子だ。こうして見ると普通の子だ。何でこんな子が、俺の運営する下品なブログの読者なのだろうか。何で俺とオフ会をする気になったのだろうか。
 それはさておき、俺は葛藤していた。
 俺はさっき、『安心してくれ』と言ったものの、はっきり言って興奮している。目の前にいる少女の気、質感、声、匂い、挙動。俺は今、五感全てで少女を感じており、その俺の心を扇動する事、童貞だったガキに戻ったようである。
 トモと、セックスしたい。
 このときめきと肉欲の入り混じった感情を、トモにぶちまけたい。
 だが、トモがそういう意味で俺を受け入れるはずもない。
 だってそうだろう? 例えば俺が中学生だったとして、自分の母親のような、四十代のババアとセックス出来るか?
 おぞましい……
 多感な十代の子なら、そう思うだろう。
 ふと、そこへトモの声が掛かる。
「私がこんな十五歳の女の子だったって、驚きませんでした?」
 はっと意識を戻す。
「いや、想像していた通りだった。
 レスポンスやメールでやり取りしていて、若い女の子だっていうのは、何となく分かっていたよ」
「え、そうなんですか! そっかあ。
 タクさんもイメージ通りでした。優しくて落ち着いていて、渋いオジサマって感じ」
 ドキリとした。
「何を……大人をからかうものじゃない」
「本当ですよ」
 言って、トモは立ち上がる。そして俺の横に腰を下ろした。
「タクさん、結構カッコいいです」
 そして、トモは俺の手の甲に手の平を重ねた。
「タクさん、私みたいな歳の女の子が好きなんですよね」
 くらりとした。
 息を荒げ、トモの方を見ると、ダブついたTシャツの胸元から白いブラが覗いていた。短パンから剥き出しの脚の白さが、目に焼き付いて消えない。
 俺はそんな無邪気なエロスから、目を離す事が出来なかった。

    *

 さて、どうする?
 浮ついた気持ちの中、俺は意識を戻した。
 トモとセックス出来る。トモは、その気だ。
 オフ会という非日常に開放的になっているのか、それとも小遣いが欲しいのか。理由は分からないが、そんな事はどうでもいい。
 俺を躊躇させるのは、時折見せる暗い表情と、こんな時間から男を求めてくる事実。
 普通じゃない。
 受け答えはしっかりしている子だが、不思議な面がある。
 逡巡している間、トモは何も言わない。薄い笑みを浮かべて、潤んだ目で俺を見つめる。
 通常なら、ただ抱き寄せればいい。口づけすればいい。そして、欲望を開放させればいい。
 だが……
 ふと、そこで気づいた。
 トモの左手首に、線のような傷跡が何本もある事に。
 ああ……心の中で嘆息した。やっぱりこの子は普通じゃない。
 俺は、断念した。
 この子に手は出せない。

「メシでも食うか?」
 そう言うと、トモは一瞬固まって、次に不思議そうな顔で俺を見つめた。
「もう少しで昼だ。どこかに食いに行くか、家で食うか」
「家って、ここで?」
「ああ。簡単なものを作ったり、出来合いのものを買ってきたりして、酒でも飲んで……
 ああ、トモちゃんはまだ未成年だったな」
 トモはぱっと表情を明るくした。
「それいいですね! ご飯、作りましょう」
 この明るい性格が、本当のトモなんだろうな。
「じゃあ買い出しに行ってくるから、少し待っていてくれるか」
「ううん、私も行きます」
 ふと、不審者として通報されないだろうか、という事を考えたが、ここは繁華街で、行先はデパートの食品売り場だ。ちょっと変わった父娘に見えない事もなかろうと思い直した。
 メニューは、鍋にした。
 暑い盛りに鍋ってもの何だが、俺は煮るか焼くかしか出来ない。マンションの部屋で焼き肉っていうのは避けたかった。
 酒で少々饒舌になっていた俺は、トモに家族の事を色々と聞き出した。
 トモは母子家庭で、母親は水商売をしている。父親はその客で、母が妊娠した時、逃げたらしく、トモは一度も父親の顔を見た事はなかった。
 母はトモを疎んでおり、「お前さえいなければ、もっと違う生き方が出来るのに」と、しょちゅう愚痴を零しているらしい。
 2Kのアパートに暮らしていて、そこによく母親が男を連れ込むらしい。そういう時は本当に居辛く、実際邪魔者扱いされる。今日朝早く待ち合わせしたのも、昨晩男が泊まっていったからだった。
「母親がセックスしている隣で、私は寝たふりしているんです」
 そう言って、寂しそうに笑った。
 トモの母親は十代という若い年齢で駆け落ちしたらしく、実家とは断絶状態だった。実際、トモは祖父祖母の住所も連絡先も知らない。
 トモの母親の年齢は俺よりも若く、三十代後半だ。確かにその年齢なら、まだ男を捕まえる事は出来るだろうと思った。
 会話も尽きずに話し込んでいると、いつの間にか時刻は夜の七時になっていた。
 トモは晩ご飯も食べていきたいと言った。一応、親が心配しないか聞くと、「全然大丈夫です。これまで生きてきて、そういう心配はされた事がないです」と、乾いた声で笑った。
 それに、どうせもうそろそろ仕事に向かっているとの事だった。
「誰かと一緒にご飯を食べたのも、家でご飯を料理したのも、本当に久しぶり」
 そう言って見せた笑顔が印象的だった。

    *

 トモとは、これで終わっただろうと思った。
 意外と会話は弾んだ。お互いの印象も悪くない。歳の離れた友人になれると思う。
 だが、俺はトモを抱かなかった。トモの要求を拒んだ。
 きっと俺は、「人の良いおじさん」で終わるのだろう。
 もしかしたら、小遣いを入手できなかったという事で、今頃舌打ちしているかもしれない。
 実際、あれからトモからメールは来ない。
 トモにとって、都合のいい人間……財布になるのは簡単だ。金はある。風俗に行ったと思えば安いものだ。
 だが、これでいい。俺は、トモを傷つけたくなかったのだ。
 そう思っているのは俺だけで、単なる自己満足かもしれない。
 だが、これでいいのだ……
 俺はパソコンを起動させて、ブログの管理画面を開いた。
 トモの事を、記録しようと思った。
 無論、オフ会の事は伏せて、外見的特徴もぼかした。
 トモという可愛らしい子と出会った事。彼女に抱いた気持ち。
 その事を記録しようと思った。
 そうせずには、いられなかった。

 トモと会ってから三週間後、ブログを付けたその週末、トモからメールが入っていた。オフ会後、始めてのメールだ。
 記事に対する抗議かと思い、慌てて開く。
『会いませんか?』
 短く、そうあった。
 俺はすぐに承諾の返信を送った。


 
   4

 前回と同じように、俺の別荘で飯を食いながら雑談する。違うのは、この日は金曜の夜だという事と、トモの服装が、身体のラインを見せるシャツに、ミニスカという、扇動的なものだという事。
 俺は極力意識しないようにしながら、会話に臨んだ。トモも特段前回と変わった様子はない。この日も楽しく会話が出来た。どうも、俺とトモはウマが合うようだ。
 宴の後、俺は後片付けをするために、皿を流しへ運んだ。
 そこに、トモが背後から抱きついてきた。
「こないだのブログを見るまで、私に興味が無かったのかと思っていました」
「そんな事はないさ。トモちゃんは優しくて可愛い子だよ」
 トモは少し間を置いて、言う。
「セックス、して下さい」
「またそんな事を言う」
 皿を置いて振り向く。俺は一瞬、硬直した。
 トモの、思いつめたような、深刻な表情に。
 俺が何か言う前に、トモは今度は正面から俺に抱きついてきた。そして、キスをしようと背伸びしてくる。が、まだ中学生のトモの身長では届かない。
 俺は少しかがんで、トモと唇を重ねた。
 唇を離した後も、トモは抱きついたまま腰を擦り付けてくる。俺は勃起していて、トモの下腹部を圧迫していた。その欲情を全て受け入れると言わんばかりのトモの態度だった。
 俺は心を落ち着かせ、
「何で、セックスしたいんだ?」
「帰りたくないから……
 お金とかは要りませんから、今日はここに泊めて下さい」
 そうか。プチ家出という奴か。
「そんな事、遠慮せずにいつでも泊まっていけばいい。見返りは要らない。
 もう、トモちゃんとは友達だろ? 友達に見返りなんて要求しないさ」
「でも、タクさん、私の身体に興味あるんでしょ?」
「無いとは言わないよ。でも、それより優先する感情がある。友達の友情を壊してまで、そんな事はしたくないさ」
 トモの身体から力が抜けた。
「タクさんは、本当に……変わった人ですね」
 そう言って、トモは肩を震わせた。
 俺はトモが落ち着くまで、そっと彼女を抱きしめていた。

 夜は更けていたが、俺とトモは遅くまで語り合った。
 トモは言った。
 同級生に友人と呼べるものはいない。むしろ虐められている。頼れる者は皆無。母親の職業から『売春婦』と呼ばれている。実際、似たような事をやっているので何も言えない。
 家出した時に会った男共には二度と頼りたくない。優しいのは初回だけ。奴らは弱みに付け込んで、つけ上がる。暴力を振るう奴もいたし、監禁されそうになった事もある。逆に、「可哀想、可哀想」と哀れんだ振りをして、チ〇ポ突っ込んできた奴もいた。本当に気持ち悪かった。
 吐き捨てるように言うトモに、俺は口を挟んだ。
「その最後の奴と、俺とどう違う? 俺も似たようなものじゃないか」
 トモは首を横に振った。
「全然違います。タクさんは私を人として扱ってくれました。友達だって言ってくれた。
 奴らは、まず私を見下すんです。私をまともな人間じゃないと設定して、哀れみの感情に浸っているんです。
 そのくせ、汚い欲望は必ず吐き出してきて、しっかり私を汚すんです」
 トモは少し涙目になった。続けて、
「お金が欲しい訳じゃないんです。お金なら、ご飯代を少しずつ貯めたものがあるし、別にそんなに欲しい物もない。
 ただ、家に居るのが辛いだけ。そんなに、逃げようとするのが駄目なのかなあ……」
 ああ、そうか。
トモは居場所が欲しいだけなんだ。ただ、穏やかな、心安らげる場所があればそれでいいんだ。この子は決して『売春婦』なんかじゃない。
「一応聞くが、学校の先生や警察に相談する気はないのかい?」
「そんな事をしたら、本当マジで母親に殺されるから」
トモは即座に答える。
嘘だ。
俺は瞬時に見破った。この子は、母親を庇っている。
「なら、好きな時に好きなだけ、ここに避難すればいい」
そう、俺は返答した。
「はい。
タクさんは、初めてメールした時、『エッチな事をしたくなるのは、“業”のようなものだ』って言いましたよね。私、その言葉に救われたんです。私が売りをしたら、奴らが私を犯すのは、仕方のない事なんだなあって。
 タクさんのブログを観た時、エッチなのは他の人と同じだと思った。でも、その事とちゃんと向き合っているって思った。だから、会ってみたいと思ったんです。
 少なくとも、傷つけるだけの事はしないだろうって」
「俺は何も分かっちゃいないよ。今も昔も、いつだってそうさ」
「そういう所が、好きなんです」
 ドキリとした。
 トモの『好き』という言葉に。
 狼狽して二の句が継げない俺に、トモは言った。
「私、もう汚れていますから、気を使わなくていいですよ。タクさんなら、私嫌じゃないし、きっとタクさんの優しい所は変わらないと思いますから」
「友達を傷つける奴もいないだろ」
 そう言って、俺はトモの頭を軽く叩いた。
「あーっ、子供扱いしないでくださいよ。
野本朋子。私の名前です。タクさんの名前を教えて下さい」
「俺は紀本卓郎。でも、どうして?」
「ハンドルネームしか知らない友達も、どうかと思いますから」
 そう答えて、朋子はにっこりと笑った。

    *

 翌日、朋子は漫画が好きだというので、デパートで食材を買うついでに書店に寄った。土曜日も一日中朋子と一緒にいた。
 長い時間一緒にいる訳だから、会話も途切れる事もある。そんな時、朋子は漫画を読み耽っていた。
 朋子はあまり外に出たがらない。「知っている人に会ったら嫌だから」と言う。
 これは、俺のようなオッサンと居るのが恥ずかしいという意味ではなく、虐めてきた同級生や、身体を売った男と顔を合わせたくないという事だ。
 朋子は今夜も泊めて欲しいと言ってきた。もちろん了承した。
 朋子は夜になると、「セックス、しませんか?」と、訪ねてきた。
 ただで好意を受けるのが嫌なのだろうか。だが、朋子の境遇を知ってしまった以上、手を出せる訳がない。
 だから、こう返す。
「朋子……中学生でしょ? まずいよそれは」
「ハタチなんですけど!
ふくしの……大学?に通ってるんですけど!」
「それ、さっき読んでいた漫画の台詞じゃないか」
「卓郎さんもノリノリじゃないですか」
 そうやって、冗談で済ましたのだが、その晩、朋子は俺の布団の中に侵入してきた。
 朋子は無言で俺の性器を触り始めた。瞬間的に俺は勃起する。
 朋子はその棒を、スリスリと愛おしそうに擦ってきた。
 俺も、朋子の股間に手を伸ばした。
 そこはしっとり汗ばんでいた。
 しばらくすると、朋子は興奮した様子で服を脱ぎ始めた。俺もそうする。
 全裸になった俺たちは、再びペッティングを再開した。
 淡い繁みを掻き分け、割れ目に指を入れると、狭い穴の壁はきゅうっと俺の指を締め付けてきた。
 瞬間、俺の興奮は最高潮に達し、勃起している性器は、もっと膨張しようと身を震わせる。
 朋子は息を荒げながら、擦る手をさらに忙しく動かしてきた。
 やがて、熱いモノが込み上げてくると、俺は朋子の手を取って、自分でしごき始めた。
 数回で頂に登り詰めた俺は、朋子の手の平に思い切り射精した。



   5

 朋子は毎週、週末になると泊まっていくようになった。
 それは楽しい時間だった。一緒にいると、ほっとしたような気分になる。
 もう、その気持ちは隠しようがなかった。直接言葉として口にしていなくても、好意は伝わってきた。俺の気持ちも朋子に伝わっているだろう。
 夏は過ぎ、秋が訪れた頃には、朋子は平日もちょくちょく泊まっていくようになった。
そして年が明け雪がちらつくようになった。
 そんなある日、朋子はセーラー服姿で、パンパンにした鞄を持って別荘に来た。
「もう限界……私、ここから学校に通いたい。ここで卓郎さんと生活したい……」
 そう言って泣き出した。
 朋子が落ち着いた後、事情を聴くと、「母が男と同棲するようになった。毎日のように乱暴されている。母が留守の時、レイプされそうにもなった。それも、何度も」と言う。母親に訴えても、逆恨みされるだけ。「男が出来たんだろ? そこに行っちまえ!」と、最後には罵倒されたらしい。
 俺は、来る時がきた。そう思った。
 朋子が俺の元に逃げ込んでくるだろう事は大方予想していた。それでも、卒業するまでは、あんな親でも面倒を見るのではと思っていたが……
 その晩、朋子は思い詰めた顔で言った。
「セックス、して下さい。
 本当に……私にはこれしかないから。こうなったら、もう友達じゃ駄目だから……
 愛人にして下さい。どんな事でも我慢するから……」
 分かっている。不安なんだろう。
 明確なギブアンドテイクの形にしたいのだろう。
「ああ、分かった」
 応えると、朋子は一瞬泣きそうな表情をしたが、すぐに覚悟を決めたように顔を強張らせた。
 俺は続けて、
「ただし、朋子が学校を卒業して、十六歳になってからだ。
 その時が来たら、俺は朋子に結婚を申し込むよ。俺は朋子が好きだ。愛している」
 朋子は目を見開いて、絶句していた。
 まあ、そうなるだろうな……
「まあ、嫌に決まっているだろうな。断ってくれていい。もちろんここに住んでも――」
「――私も好きです!」
 朋子は声を張り上げて、俺の言葉に被せてきた。
「私も卓郎さんの事、愛しています。私なんかで本当にいいのなら、結婚して下さい。
 って……まさか、そんな……私なんて、汚いのに……」
 感極まったのか、朋子は泣き出した。
 俺は朋子を強く抱きしめた。
「もう自分を汚れているなんて思うな。俺にとって、朋子は誰よりも清らかで美しい。素敵な女性だ。
 誰が何と言おうと、俺は朋子を綺麗だと言い続ける。それじゃ駄目か?」
 朋子は小さな声で、「ありがとう」と言った。

   *

 本当は、朋子が学校を卒業して、社会に出て、しばらく好きに過ごさせてから、告白すべきだったのかも知れない。
 だが、俺にはわざわざ朋子に悪い虫が付くかもしれない期間を作るなど、到底できなかった。
 朋子にその話をすると、「私は多分、卓郎以外に心を開く事は無いし、そんな期間はいらない」と言った。
 それは本心だと思う。朋子は病的なほど、他人を恐れている。
 だが、いつかは心が癒える時はくるだろうが。
 しかしまあ、今はそれでいい。
 俺は朋子を幸せにするために、全力を尽くすだけだ。いつか人生を振り返って、俺で良かったと思ってもらうさ。
 俺は少女に欲情を持つようになった。
 それに振り回された時期もあったが、今はただ一人の少女を幸せにしようと誓った。
 俺はきっと、朋子と愛し合うためにそうなったのだろう。
 そう思う事にする。何がどうだとて、これが俺の運命だったのだから。
 運命の人と、出会えたのだから。

 俺はパソコンを開いて、ブログの管理画面を表示した。
『オナ日記』はもう閉鎖した。
 いま綴っているのは、まだ十代の、うら若い妻に対する愛情の記録だ。
 ブログタイトルは……恥ずかしいから、教えない。


2016/09/13 (火) 09:34 公開
作者メッセージ
リハビリで書きました。
この作品の著作権は作者にあります。無断転載は著作権法の違反となるのでお止め下さい。
 
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感想・批評
読もう読もうと思ってたんだけど長いっていうからさっきまでちょっとやめてたんだけど、読んでみたらやっぱり読みやすくて面白かったんでとうとう一気に読んじゃった。
確かにどこにでもある話だけど、やっぱりこういうの萌えるなあ。
ハッキリ言って家出少女って萌える。ファンタジーだんなあ。
ファンタジー!ファンタジー!
2:ひやとい <VcGUVz9P>
2016/10/01 (土) 22:40
好感 7点
読んだ。
貴殿の、この文量の作品は、初めて読んだ。
感想としては、
トモのキャラクターが、ありがちな気がした。
主人公の内面も、もう一癖、二癖欲しかった。
不幸な少女を、お人好しのおじさんが救う。
正直、どこにでも転がっている話だと思った。
しかしながら、リハビリで、50枚書けるのは、凄い。
そこは、感心した。

以上です。
1:</nuUjIiL>
2016/09/14 (水) 19:03
普通 4点

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