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マネービギン(其の壱)
ヒアシ: 人生、金の切れ目が円の切れ目!
         マネービギン(其の壱)




 いつもお金には96(苦労)をしょわされてきた。
 さて、ワタクシが初めてお金を得たのはいつのことだったろう。
 まったく記憶にはないが、推測は可能だ。
 それはおそらくワタクシがワタクシとして自我を確立する以前のことだったとおもえる。
『ふんギャー』とファーストボイスを発し、母親の股間から人生ゲームのボードへ産み落とされた数日後で間違いない。
 ――出産祝――
 だが、そのときのワタクシにはご祝儀袋の中身がいかほどの重量か、両親へ尋ねる術がまったくなかった。
 そりゃそうだ。生まれてまだ幾日も経ていない息子が、
「ボクのカセギはいまナンボ」
 などと、まだうまく開けない指を、お手の状態で両親へ向けることは難しい。
 そんなことより、もし、生まれてすぐにコミュニケーションの才がワタクシに備わっていれば……(仔馬は生を受けてすぐに立とうとするらしい。
 人類は生まれた瞬間から暫くは他力本願の宿命を背負わされる)。
 まっさらなおくるみの中から、資産運用は間違いのない選択でお願いしますよ、お父さん。
 と、自らの将来を案ずる希望を明快に向けることができたのならば……。ああ、悩ましい。
 つけても、その日を端緒に学業を終えるまでのワタクシのキャッシュフローはどのようなチャートを示したのだろうか。
 アルバイトもせずに毎日きまった時間に学校へ通う。そんな身分に過分所得などない。
 勤め人、父親のそれに恩恵としてあずかったことはあるのだろうが。学、勤、退、厚。
の凌ぎ後生のシステムを、まだんなく終えるまで道のりは長く険しい。
 人生百年。ふざけるな。それでは死産の子が不憫ではないか。
 無事に生まれてまもない人間の宿命として、まず自ら稼ぐことはできない。
 金を得る手段はイベントだけだ。お正月。両親の実家へ動向。たまさか家を訪れる裕福な知人、遠縁からのお小遣い。
 そのたびに握ったお金の価値を相対的に判断する。
 これで何ができるのか。これがワタクシを幸せにするのか。
 もちろん、それで菓子は買えたし、ゲームもできた。小学生時代というのはマネーに惑わされる最初のゲート。
 その遊戯を友だちと競い合ったり、母親がつくった貯金通帳で確認したり、なんとも生産性のないダメなムダな日を過ごしてゆく。
 小学生のワタクシに知恵があって、社会にも、もう少し努力があって、『私立資産倍増術享受学園=レバレッジスクール』なる学び舎があったなら。
 偏差値がいくら過酷であろうが睡眠を横に放り、受かる術に夢中になったとおもえる。
 さて、ここまで付き合っていただいた諸兄は、
「屈折しているな。ほかに楽しみがいくらでもあるだろう」
 と悪たれを衝くかもしれない。
 だが、ちょっと待て。いま、ワタクシは声を出川哲郎氏へ託して言いたい。
 ヤバいよぉ、ヤバイヨォ。あのう、
 ヒトがァ、人生の終焉を迎えたときィに、満足を満たすゥのはァ、
 いくら稼ぎィ、どのくらい消費したのかァ。という崇高なる賃借対照表の評価だけではないのかァ!!!!!!!!!!!!!
 ってね。

2018/04/28 (土) 14:29 公開
2018/04/29 (日) 00:44 編集
作者メッセージ
我、思うゆえに円あり!
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感想・批評
読みました。
1:ひやとい <nZ/QPAXy>
2018/05/02 (水) 19:25

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