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appetite moderno  作者:秋吉君  へのレス
 まず、丁寧で堅実な文章に好感を持った。終始安定していて、読者への配慮とともに作者の主張もしっかりと織り成されている文章だ。内容はこれでもかという料理、食べ物、飲み物の羅列で読んでいるだけで食欲をそそられ、また活字を追って目で楽しむこともできたが、同時に四十五歳の主人公の哀愁が婉曲的に、独特な雰囲気を醸成して表現されている。「誰にも背中を見られたくない、どうしてだか分からないが」という一文は特に適切であり、「人との交わりにも時季というものがあるのだろう」という老成した達観が、旬を過ぎた手を彼女の野生の感性とやらにかわされてしまった主人公の哀愁に却って効果を加えていた箇所などは秀逸であると思った。この小説は主人公がやや高齢であるだけに、その情趣や或る側面では読者を選ぶきらいもあると思うが、私は共感して読んだ。

定番メニュー  作者:ミラ  へのレス
 まさに定番メニューといった作風ですな。幼い娘を容疑者が喰ったというモチーフは衝撃的ではあるがフィクションとしては若干使い古された安易な感もないではないし、まだ紙幅に余裕があったのだからもう一つ何かスパイスを効かせて貰いたかった。

カイタク  作者:老人A  へのレス
 浦島太郎の玉手箱が本になった!とでもいった具合の創作意図であったろうか。お題の消化がやや弱いが、食卓から嘱託への発想の転換はアイディアであると思った。周りに老人しかいなくなってしまったのは、今後に来たる日本の超高齢化社会へ向けての作者の暗示と懸念であったろうか。

敗者のカツサンド  作者:Kindle厨  へのレス
 私は新人賞を受賞した経験こそないものの、作家志望の端くれとして書くことの、また書き続けることの辛さ、厳しさは身に沁みてよく分かっているつもりである。この作品は私だけでなく、敢え無く散ったことのある経験を過去に持つ創作文芸板住人たちへの鎮魂歌であるようにも読めた。

鬩ぎ合い  作者:ぷぅぎゃああああああ  へのレス
 ワイさんらしいオチを重視したストーリー展開で、読み物としてはとても面白く読めた。話の順を追っていくごとに読者を作品世界に引き込んでいく技巧の高さは前作「美味しかったもの」とはまた一味違った様相を呈していながら、読者を楽しませるよう周到に企まれた意匠によりわくわくしながら、しかし安心して読むことができる。

白猫シロはかく語りき  作者:オチツケ  へのレス
 猫好きの私としては面白く読ませて貰った。一日でも猫と話せたらいいなという願望は多くの人が持つところであろうし、またのんびり屋の猫から見た人間のせわしなさ、お金やストレスに振り回される体たらくへの皮肉も効いていて小気味よかったが、シンプルな主題だけにもう少しのインパクトが欲しかったなという物足りなさも若干残った。

羊羹  作者:蛙  へのレス
 終盤、少し羊羹を強調し過ぎた。もっとさりげなくてもよかったのではと思ったが、作者のとことん羊羹で押そうという気概は買った。
 私は一読して、この主人公は本当に羊羹が好きなのだろうかと疑問に思った。もちろん、嫌いではないだろう。だが、主人公と羊羹を結び付けているものは、好きとか嫌いとかそういう表層上の関係よりもっと根源的な奥の方、潜在的な無意識下で個性を形成する宿命的な縁であったと思う。頭が真っ白になった時に、ふと「すきな、たべものは、ようかんです」と口走る。この無意識過多に支えられた至って素朴な反応に主人公と羊羹の関係が如実に表れている。主人公は半ば羊羹を処世術のようにして使っている節もあるが、「自らの個性が羊羹に支えられているなんて露ほども考えることはなかった」というところが肝要であり、もしこの態度が欠けて関係性が意識的になった時にこの物語は敢え無く破綻しただろう。あくまで彼女にとっては当然のことだった、だからこそ彼女にとってはすべてが羊羹であった。

Mangiare,Amare,せめてCantare  作者:つしたらのし  へのレス
 男女の別れにまつわる詩的散文とでもいったところだろうか。細部の描写に気配りができていて瀟洒な雰囲気の醸成にもある程度成功が見られるものの、この作品には今一つ何かが足りないという印象を受けた。雰囲気だけで運んでいくよりはもう少し感情に訴えるものが欲しかった。その点、「冗談を聞いているみたいに笑おうとするなんて」という一文の前後には二人の別離が曖昧に、しかし明確に暗示されていて、雰囲気もあり感情的でもあって適切な表現であったと思う。

追憶のレシピ  作者:覆面ジャッジ  へのレス
 ここまで徹底的に食に対して貪欲な主人公を追求し明晰に書き切った技量に感服した。アジの料理は美味かったが、鍋料理の方がよく、それでも子牛の肉料理が喰いたかった。とりわけ、他人の死にまるで無関心な「床に転がっていたという夫婦など記憶にない」という一文は効果的だったと思う。加えて、子供まで殺め愛犬は解体される。そして、当の主人公は貌をわずかに歪めただけなのである。こうした刑執行前における最後の晩餐が実際に行われるのかどうかのリアリティーはともかく、作者は見事にこの素材を料理し切ったといえる。

いただきます  作者:もりそば某  へのレス
 非常に惜しい、というのが率直な感想であった。前半の運びはとても良かったと思う。失恋して打ちのめされた友人を慰める主人公、感情移入しながら読むことができた。これは所謂「百合」というジャンルの作品なのだろうが、前半の運びの延長で百合の要素をしめやかに、ひっそりとした読後感に余韻を浸らせて物語を結んでもよかったかもしれない。少なくとも、露骨に「いただきます」とがっついて締めくくるのはどうなのだろうか。前半の運びのままでは今一つインパクトに欠けるという懸念、または前半と後半とのギャップというものを意図したのであれば、そのような意匠を敢えて施さなくとも、もっと素直にシンプルに勝負しても充分に通用するクオリティーの作品ではなかろうかと個人的には思った。しかし、この結末の受け取り方は読者によって意見が分かれるところなのかもしれない。

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